用法・用量を理解すること 映画「ウルフ・オブ・ウォールストリート」

私は仕事柄、投資家と呼ばれる方々と話をすることが多く、証券アナリストの資格を取得しており、比較的資本市場のことは理解している方だと思う。実際にウォール街に行って、ブル像を見たこともある。資本市場のことを勉強する中で、投資という発明の素晴らしさには何度も感心させられた。そんな私にとって、ウォール街の暗部を描いた本映画は興味深く、また最終的にベルフォートが受ける仕打ちは快哉を叫ぶものであった。

投資と投機は違うとよく言われる。しかし、これらはリスクの大きさとリターンの大きさが比例するという資本市場のルールからすれば、一緒だと私は思っている。自分が負えるリスクを理解せずにFXや仮想通貨にのめり込み、ギャンブルのように身を破滅する人が多いため、投機は悪いことだというイメージが付き、その結果投資までも悪いことと同一視されているが、投資も投機もしっかりルールを理解して行うのであれば、結果は自分に返ってくるだけなので、問題はないだろう。

しかし、本作のベルフォートは違う。すべての行動は自分が儲かるための手段に過ぎず、顧客にルールを理解させずにリスクのみを背負わせる。顧客にゴミのような株を売りつけ、自分の保有する株式の価格を釣り上げるためならば、顧客に弁舌たくみに株式を売らせる。その結果、巨万の富を得て、この世の天国を謳歌していくその姿は醜くも美しい。

翻って我が国では、バブル崩壊のダメージが尾を引いているのか、勤労によって稼いだ現金が一番だという風潮が長く続いている。このような詐欺まがいの行動で大損したというニュースを聞くたびに、そうした風潮が強まっていく。しかし、本来投資とはお金に余裕のある人が、やりたいことやアイデアはあるけどお金がないという人をサポートするものであり、金儲けだけの制度ではない。このような美しい理念をないがしろにしたインチキ証券会社により、大損した人、投資と投機の違いもわからず現金信仰を強固にする人が増加し、資本市場という美しい仕組みか機能不全を起こしているのならば、ベルフォートは厳に罰せられなければならないのだろう。同時に、そんな極端な事例に左右されないだけの金融リテラシーの教育は我が国の喫緊の課題なのだと実感する。

何事も用法用量を守らなければならないが、そのためには用法用量を理解しなければならない。それができなければ、どんなに美しい理念も絵に描いた餅になるのである。

そんな小難しい話につながるほど、私にとって興味深く、タイムリーな作品であった。主演のベルフォート役はレオナルド・ディカプリオ。タイタニックを見て知ってから20年以上経つが、初めて見たときに彼のあの甘いマスクから感じた、年を重ねる中で魅力が落ちるに違いないという直感は、外れていたことを認めざるを得ないほどのはまり役であった。マーティン・スコセッシ監督が彼の魅力をいかに引き出しているかも本作の見どころである。

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