見出し画像

ジョブ型雇用の全て

はじめに


最近日本の大企業である日立や富士通、NECなどがジョブ型雇用の制度を導入していくといったニュースをよく聞きますが、今回は話題のジョブ型雇用について、非常に丁寧に分かりやすく記載されている「ジョブ型雇用のすべて」という本について、拝読致しました。ジョブ型雇用とは何か?なぜジョブ型雇用であるべきなのか?制度を取り入れるためにはどのような進め方になるのか?日本企業がジョブ型を採用する際に課題となる点は?など詳しく記載されていますが、今回は序章のジョブ型雇用とは何か?という部分についての要点と感想をnoteにアップ致します。

この本は殆どの日本企業(特に大企業)に対して、「従来の日本型雇用からジョブ型雇用へシフトしなければ成長する事ができない。」という立場を明確に示しています。なぜ、従来の日本型雇用(メンバーシップ型)だと成長することができないのか?どうすればジョブ型雇用の会社に変わる事ができるのか?という疑問に対して、具体的な方法やプロセスを提示しています。

著者の方は、約30年以上を組織・人事コンサルタントとして活躍をしており、現在はマーサージャパンという世界的に有名な組織・人事コンサル企業で組織・人事変革部門の代表をされている「白井正人さん」という方です。組織・人事変革の最前線にいらっしゃる方が実際に現場で経験している事を、他の企業でも再現できるようにHow to化しているといった内容だと私は感じました。


著者の主張

本書では、「日本企業はメンバーシップ型からジョブ型雇用へシフトするべき」という主張を一貫して提言しています。メンバーシップ型の組織が日本経済の成長を妨げている要因である。と述べています。理由としては、"グローバル化""デジタル化"により企業が身を置くビジネス環境の変化が激しくなっているのに対して、メンバーシップ型の組織では変化に柔軟に対応することができないのが原因だと述べています。
なぜ、変化に対応できないのでしょうか?主な原因は2つです。
1)メンバーシップ型は人材の流動性が低い
2)個人のリスキル・スキルアップが盛んではない
これらの理由により、社員は自発的なキャリア思考を持てない状態になっているとの事です。
逆に、下記図のようなジョブ型の組織では企業は変化の激しい環境に合わせた戦略を実行するための人材をすばやく採用することができ、人材は自律的にリスキルやスキルアップを行い市場価値を高めることができる。と著者は主張しています。

画像2

日本の雇用システムの歴史

今のほとんどの日本の大企業はジョブ型ではなく、メンバーシップ型の雇用システムであるといわれています。
メンバーシップ型の雇用システムとは何でしょうか?主な特徴としては、次の5つのポイントが挙げられます。
新卒一括採用、年功序列、終身雇用、異動の裁量が会社にある、そして企業内組合が存在する。」という点です。メンバーシップ型は、残念ながら現代のビジネス環境には合わない制度になっていると述べられていましたが、歴史的にみるとバブル経済以前までは、メンバーシップ型雇用の制度が、世界における日本企業の大躍進を支えた要因の一つだとされており、世界各国が日本型組織の分析をしていたとされています。これは日本型組織が当時のビジネス環境に合った制度だからである。と筆者は述べています。ざっくりまとめると下記のようにビジネス環境が変化したことにより、適正な雇用制度が変化していると考えられます。

画像2

メンバーシップ型雇用

それでは、具体的になぜメンバーシップ型が市場に合わない雇用制度なのでしょうか?著者はメンバーシップ型による4つの綻びを挙げています。
①高度専門人材を確保・有効活用できない
綻びの理由としては、「報酬水準が低い、雇用条件が厳しい、人事権がない、裁量権が少ない、キャリアについての不安」といった事が述べられています。私が転職エージェントとして、メンバーシップ型の組織におり転職を考える候補者様と話をさせて頂く中でも、報酬水準やキャリアについての不安を転職検討理由に述べられる方も多いので、綻びがあることを実感しています。
②新卒の優秀層を採用できない。
綻びの最大の理由としては、経済合理性の低さだと述べられています。メンバーシップ型の組織では、年代が若い世代ほど生涯年収が低くなるというデータがあるとのことです。例えば今の20代が50代になってもらえる報酬と今の50代がもらっている報酬を比較すると、今の20代が50代になってもらえる報酬が低くなると予想がされるということです。日本の年金制度と同じように年代が若いほど構造的にリターンが悪くなってしまうとの事です。そんな構造の組織に一番若い世代の新卒として入社したくないという人が増えてもおかしくないですね。
③中高年のぶら下がり人材が恒常的に発生する。
メンバーシップ型では終身雇用で雇用が保障されているので、自らスキルアップ・リスキルをしないとキャリア形成がうまくいかない。という危機感が生まれずらいでしょう。また、人事権は会社に決定権があり、多くの人材はジョブローテーションで複数の部署を異動してある職種のスペシャリストではなく、その企業で通用するゼネラリストとして育成されています。そのような環境で何十年も過ごしてしまうと、いわゆる転職マーケットでは選ばれずらい人材となってしまいます。社外で活かせるポータブルなスキルを獲得できていないということです。そのため、社内では”ぶら下がり”という不名誉な呼び方をされる人材が発生してしまいます。
④女性社員・外国人社員・シニア社員の活用が進まない。
少子高齢化が進む中、女性やシニア、外国人人材がより社会で活躍できる環境を作ることは重要ですが、メンバーシップ型ではそのような人材に活躍してもらえる構造に残念ながらなっていない部分があります。例えば、女性であれば出産・育児・介護といった理由により一時休職や時短勤務に切り替えるなどをする事がありますが、昇進や昇格管理には年次や勤続年数が影響する会社が多く、将来にわたってキャリアにマイナス影響ができることが予想されます。(先進的な会社では積極的に男性も育児休暇や介護休暇を取ることができるような取り組みがされているが、休暇を取った後にしっかりとキャリアを形成できるのかについては明確ではないように思えます。)
シニア社員においては、メンバーシップ型では内部公平性を重んじるばかりに一定の年齢になれば役職定年などの制度で報酬を一律で減額しようとします。これでは優秀なシニア社員の意欲を落としてしまうことになってしまいますね。また、外国人人材についても、メンバーシップ型の組織(同じような考え方の人材が長年仕事をしており、ハイコンテクストな文脈で仕事が進んでしまう組織)の中に飛び込むのは容易では無い事が想定できますね。

このような綻びが見えてきた中で、著者はメンバーシップ型について「企業だけでなく社会全体の問題」だと下記のように述べています。

メンバーシップ型は今まで一種の社会保障となり社会を安定させてきましたが、反面「人の出入りを抑制」「個人にリスキル・スキルアップのインセンティブが働かない」ことから会社が新しい組織能力を得る障害となり、デジタル化・グローバル化に必要なビジネス変革を滞らせ会社の成長を阻んでいる。さらに視野を広げると、産業間の人材流動も妨げ、成長分野への人材シフトを難しくしています。日本を一つの組織として捉えると、組織全体として変革のリスクをとらないため、リターンもとれない状況を招いてしまっているのです。~(中略)~今は高度成長期のように多くのブルーオーシャンがあるわけでも、人口ボーナスがあるわけでもありません。投資の2大要素である人材、資金ともに、健全なリスクを取ることで、ようやく成長の芽が出てくる時代なのです。
P66、67から引用                                                 

ジョブ型雇用

ここまで、大企業を中心とした日本の雇用がメンバーシップ型になるまでの歴史や現在における制度の綻びについてまとめましたが、それにとって替わるジョブ型について、概要を見ていきましょう。著者によるとジョブ型雇用とは「ジョブを介した会社と個人の労働力の市場取引」だと述べています。海外企業や国内でも外資系やプロフェッショナルファームでは一般的な雇用システムとなっています。ジョブ型の最大の特徴は、基本的には労働契約の解除は相互に自由という思想が根底にあります。(もちろん労働法の適用内の話となります。)会社側が個人のスキルや成果に不満があれば、従事者を代えることになりますし、個人も労働環境に不満があれば、会社を去ることになります。会社と個人が対等な関係にある状態です。ジョブ型雇用においては、会社が個人のキャリアを形成していく責任が無いため、個人は自律的にキャリアを考えリスキルやスキルアップをしていく必要があります。会社側は優秀な人材の獲得やリテンションのため、市場競争力のある報酬の提示や同意のない異動を辞める、またエンゲージメントをより高めていくなどして選ばれる会社になるための努力をする必要があります。会社も個人も程よい緊張感を持ちながら、選ばれるために努力をし続ける状態を作れることがジョブ型雇用の本質的な価値だと、私は認識しています。また、ジョブ型雇用を導入することは、下記図(本を参考に作成)のようにすべての要素を変える必要があります。逆に言うと、ある部分ではメンバーシップ型の要素を残して、ある部分はジョブ型に変更しても制度として機能しずらいということです。例えば、報酬だけジョブ型制度で他はメンバーシップ型に変更するとします。しかし、もしその人材が社内都合で異動になった場合に職種が変わるため、その職種の市場観に合わせて大幅に改定をする必要があるかもしれません。急な報酬変更を迫られた従業員は組織に対してネガティブなイメージを持ってしまう可能性が高いでしょう。それぞれの要素が有機的に結びついている人事制度を個別で変更することはその制度が持つ本質的な原理を崩してしまうことになりかねません。

画像3

画像4

「ジョブ型雇用のすべて」ではジョブ型雇用における各要素について非常に詳しく説明が記載されているので、ぜひ気になる方は本を手に取ってみてください。
ここまでジョブ型雇用の特徴について要点をまとめてきましたが、果たして現代の日本企業はすべてジョブ型雇用にシフトしていくべきなのでしょうか?著者は「当面の間はメンバーシップ型の継続が合理的なケースもあるが、長期的な目線で見るとやはりジョブ型に移行していく事がトレンドとなるだろう。」と予想しています。現時点でメンバーシップ型が合理的な会社とはどのような会社でしょうか?著者は下記のような会社を挙げています。

‐既に強力な商品を持ち、海外事業においても輸出や今までのリレーションで十分な収益を上げられる会社。
→市場の変化による競争を避けることができており、市場に合わせた組織能力の急な変化に取り組まなくても良いため。
‐総合商社のように低い雇用リスクのなか、市場と同等、それ以上の報酬を提示できる会社。
→優秀な新卒採用者を確保することができる。また生涯にわたって高い報酬を支払い続けることができている限りは、リテンションのリスクも比較的低いため。
しかしながら、上記にあてはまる会社においても、メンバーシップ型では若年層が中高年を支える構造には変わりはないため、時がたつにつれて制度に限界が訪れる可能性は高いと考えられます。

感想

私がこの本を読んで感じたことは、個人・会社共に早く変化する必要性に気づいた上で行動しなければ、いつの間にか社会から置いて行かれるのでは。という強い危機感を覚えました。
個人の立場から見ると、メンバーシップ型の大企業で働くことが安定では無く、どの企業に属していようとも、キャリアを自分自身で作り上げるという意志を持って市場に必要とされる人材になっていかなければ、決して安定した仕事をしているとは言えない事が改めて理解できました。
会社としては、選ばれる会社になるために常に市場や競合、そして自社の従業員の状態を観察して、各要素の人事戦略を計画・実行・カイゼンすることが重要になると強く思うことができました。
本書では、実際にメンバーシップ型からジョブ型に移っていく企業がどのような課題を抱えながら変革していったのか?といったリアルなケースについても記載がされています。今後、ジョブ型雇用について疑問があった際は、何度もこちらの本を読み直すことになりそうです。



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?