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崖の下のポニョ~

北アルプス後立山連峰の鹿島槍ケ岳から五竜岳を縦走する初日、急登で知られる赤岩尾根(写真下)を登り、冷池山荘へいく途中に起こったアクシデントを書いています。

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今回の山旅用にポールを新調し、前日の爺ケ岳が使い始めの初日(写真下)、そしてこのアクシデントはポールを使って二日目に起こりました。

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もうすぐ稜線の冷乗越(つべたのっこし)に辿り着く手前、木製の梯子階段を登ろうとした際、ふとした拍子に手から離れたポールが細い尾根道からスルスルスルーと傾斜のキツイ岩の斜面を滑るように5m程下に落ちて行った(写真では平面に見えますが、実際はかなり傾斜があります)。

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リュックやカメラを尾根道の平らな場所に置き、『崖の上』で停止したのでポニョと名付けたポールに「待ってろよぉ~!」と声を掛け、斜度が緩めの左手(写真の左側)から斜めに下りてポールを取りに行こうとしたが、緩く見えた斜面は案外傾斜がきつく、岩肌が予想以上に脆(もろ)い。一歩着地するたびにビー玉サイズに粉砕された砂岩がざざざーと大量に斜面を転がり落ちていく。
「ごめんなポニョ。こっちは意外と危ないわ」
崩れやすい斜面をそれ以上ズレ落ちないようにゆっくり登り返し、なんとか両足を尾根道に戻す。
「ふぅ~。危なかったぁ。反対側から行くからもうちょっと待っててや!」
今度は右手のゴツゴツした岩場(写真右側)から下降を試みる。
頑丈そうな岩を手探(てさぐ)り、というより足探りで。全体重をどちらかの足に乗せ過ぎないように注意し、同時に万一に備えて両手は脆くない岩や草を握る。
ゆっくり動かした二歩目の足が岩に着地した瞬間、煉瓦サイズの角ばった岩が崩れ、ポールがある方向にゴロンゴロンと落ちて行った。
「あ~、ポニョにぶつからんといてぇ~」
の願いに反して、角ばった赤茶けた岩は転がるたびに粉砕され、小さな石粒となって容赦なくポールに当たる。落ちた岩の衝撃で下の方の岩も崩れ、斜面がどんどん崩壊し、さっきまであった足元の岩場は辛うじて靴の先端部が引っかかっているだけの小さなスペースに変わり、斜面を凄い勢いで流れた岩と石が崖の下へと消えていく。
「頼むわぁ~、ポニョに当たらんとって~」
の精一杯の祈りも虚しく、大小いくつもの石がポールに命中し続け、最後にこぶし程の大きさの石がポールのグリップに命中。
サーっと大量の砂岩と一緒にポールも崖の下へと消えていった。
「ポニョ~!」
一瞬の出来事だった。
一瞬だったが、石が当たり、押し流されるようにポールが崖の下に消えていく瞬間の前後、音は何も聴こえなかった(正しくは音の記憶はなにも残っていない)が、その分、映像は超スローモーションで目に焼き付き、その後も何度も繰り返しその映像が脳裏に映し出された。
動揺していたが、冷静さも失うことなく懸命に尾根道に戻り、目の錯覚かもしれないから、と一縷の望みを抱いて振り向いたが、当然もうポールは崖の上から無くなっていた。
自分もあの斜面を成す術もなく流れ落ち、崖下に滑落していたかもしれない、という恐怖感がしばらく全身を包んでいたが、もしかしたらポールが自分の身代わりになってくれたのかもしれない、とも思った。
そう思うことで買ったばかりのポールに対する申し訳なさを少しでも軽減させたかった。と同時に、今回の縦走を無事終えることをポールに誓った。それが手を放してしまった自分が犠牲になってくれたポールに対してできることであり、絶対に落ちたらアカンで!というポールからのメッセージのように思えた。兎に角、これは何か意味があることだ、と思わずには次の一歩を踏み出す気力が萎えてしまう程の怖い出来事だった。

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その後、二ヶ所のトラバース(写真上)を過ぎると稜線が見え、登り切った冷乗越からは剱岳が遠くに見えた(写真下二枚目の左奥)が、アクシデントの心的ダメージの方が大きく、はしゃぐ気分にはなれなかった。

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21冷乗越(つめたのっこし)

以上が、今回の夏山登山中に起こった数分間の出来事・アクシデントです。

その夜から天候が崩れ、翌日の縦走と三日目の下山とも雨と強風の荒天となりましたが、ポールのお陰で、不用意な動きをしない慎重さと集中力を維持し、最期まで気力も失わずに下山することができました。
きっと今も崖の下にいるであろうポールを思うと、申し訳ない気持ちになりますが、この経験を無駄にしないことが自分ができる償いであり、ポール(のアクシデント)を忘れず今後の登山に活かしたいと思っています。
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今回の縦走を含めた北アルプスの動画をYouTubeにアップしています。お時間が許せばご覧いただけると幸いです。

【登山】北アルプス岩稜帯難コース 八峰キレット 縦走記録
https://studio.youtube.com/video/K1HNZfkrLd0/edit

【登山】ダブルじぃと爺ケ岳に登る
https://studio.youtube.com/video/yNCn8DpEcHk/edit

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

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