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衰退する書店が多い中で、なぜ”天狼院書店”は右肩上がりの成⻑ができるのか? ~vol.2 成長をけん引するマーケティング戦略とは

 技術革新が進む中、アナログからデジタルへの移行等、業態転換を求められる業界も少なくありません。特に、インターネットの普及により、紙媒体のデジタル化も進んでいます。
 出版業界や書店もまさにそのあおりを受け、事実、2000年頃には2万店以上あった書店がここ20年弱で9000店以上減少し、1万店割れも目前といった状態に追い込まれています。
 しかし、そんな中、なぜ6年前に池袋の片隅に開業した天狼院書店は、店舗を増やし、成長を続けることができているのでしょうか。
 天狼院書店を運営する東京プライズエージェンシーの代表取締役である三浦崇典氏にその秘訣をお伺いする2回目。今回はその成長戦略やマーケティング手法についてご紹介します。

売り場面積15坪からのはじまり

――現在は、東京メトロやJRなどの駅ビルにも出店されていますが、1号店は池袋の南、雑司が谷近くの決してアクセスがよいとはいえない場所にあります。これにはどういった戦略があったのでしょうか?

三浦:池袋を中心とした豊島区が「文化の発信拠点」であるという事実は、出店する際の決め手の1つでした。手塚治虫や石ノ森章太郎が暮らしたトキワ荘をはじめとして、アニメイトさんというアニメの聖地があったり、たくさんの劇場があったり、現在進行形で国際アート・カルチャー都市を目指した再開発が進行していたりと。とにかく何かを生み出すエネルギーを感じることができる街、それが豊島区なのです。
 その池袋の隅っこに1号店をオープンした理由ですが、これには戦略もなにもなくて、手元にあったわずかな運転資金で出店できる場所が他になかったからです。加えて閉店が続いている「書店」という業態を快く迎えてくださるビルオーナーの方も少なく、そんなときに親切にしてくださったのが、本店が入るビルのオーナーさんでした。

 案の定と言えばそれまでですが、人通りが多い立地ではありませんので、オープン祝いとして関係者にご来店いただいたあとは、閑古鳥がなくような日々が続きました。当然、売上も厳しく、1カ月の売上が現在の1日の売上に相当するくらいでしたね。
 今でこそ、テレビやラジオ、雑誌など多くのメディアにもとりあげていただいていますが、当時、がらがらの店内で店番をしながら「これはまずいな」と思っていました。

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倒産の危機を救ったお客様の声

――売上の低迷が続いていたということは、撤退も視野に入れられていたのでしょうか。
三浦:
自慢にもなりませんが、今まで十数回、倒産の危機に直面しています。その都度、なんとか乗り越えることができたのは、天狼院書店に期待してくださる「お客様の声」があったからです。
実は、看板ゼミとなっている「ライティング・ゼミ」は、そもそもお客様からの声から実現したコンテンツでした。
 天狼院書店には裏ルールというのがあって、まったく関係のないお客様3人から同じ要望が上がってきたら、実現しなくてはなりません。そのときも、示し合わせたかのように、「ライティングのノウハウを教えてほしい」という声を複数のお客様からいただきました。ゼミの核となるライティング・メソッドは、私自身が20年以上にわたり、小説家になりたい一心で編み出した「秘伝のタレ」のようなものです。そのため、公開するのには少し躊躇したのですが、いざ、ゼミを開講したところ、小さな店舗に入りきらないほどたくさんのお客様にお申し込みいただき、経営危機も脱することができました。
 また、今年の4月、「小説家養成ゼミ」受講生だった坂上泉さんが『明治大阪へぼ侍 西南戦役遊撃壮兵実記』で文芸春秋さんが運営する「松本清張賞」を受賞されましたが、このゼミもまたお客様の「小説の書き方を教えてほしい」というご要望からはじまったものです。

――文章、写真、旅、落語など、一見ばらばらに見えるコンテンツのすべてが、お客様の「〜したい」「〜を学びたい」というご要望から生まれているということですね。
三浦:
人生100年時代と言われるいま、生涯学習に注目が集まっていますが、どんなにAIや科学技術が発達したとしても、人間の学びたい、何かを成し遂げたいという願望は永遠なのではないでしょうか
 これは年齢や性別に関係なく、人間の本能のようなものだと私は考えています。実際、ゼミの受講生の年齢もまちまちで、十代後半の大学生から、還暦を過ぎたシニアの方々まで幅広く受講されています。
 私自身、40歳を超えたいまも、やりたいこと、習得したいことが山ほどあって困っているほどです。

登壇写真(三浦・ワッカ)

成長を支える核となるマーケティング戦略

――来年は新しい店舗の計画もあるとお聞きしていますが、破竹の勢いで前進する天狼院書店の戦略の本質はどこにあるのでしょうか。
三浦:答えになっているかわかりませんが、天狼院書店は、拙書『殺し屋のマーケティング』(ポプラ社)でも解説している「7つのマーケティング・クリエーション」というメソッドをベースに運営されています。
 斜陽産業と言われる「書店業」にもかかわらず、デベロッパーや金融機関の方々にご支援いただけるのも、このメソッドを核としているからです。

7つのマーケティング・クリエーション
1「ストーリー(旅立ちの理由)」
2「コンテンツ(商品)」
3「モデル(仕組み)」
4「エビデンス(実数値)」
5「スパイラル(上昇螺旋)」
6「ブランド(信頼)」
7「アトモスフィア(空気)」

 このメソッドを構成する7つの要素の中でも重要なのが、「コンテンツ」です。もし、魅力あるコンテンツ(商品・サービス)がないのなら、どんなにPRをがんばっても、広告費を投入しても持続可能性はありません。ですから、経営においてまず注力すべきはコンテンツだと私は考えています。
 そのコンテンツを生み出す鍵は「お客様満足」を超えた「お客様感動」です。天狼院書店では毎週のように新しいコンテンツ案がスタッフから提出されますが、「本当にお客様に感動していただけるのか」の1点を徹底的に追求し、コンテンツに磨きをかけています。
 「本」を再定義した店舗を創ってきましたが、来年は「旅」「シアター」「出版」を再定義したいと思っていますので、楽しみにしていただければと思います。

プロフィール

三浦崇典(みうら たかのり)
1977年宮城県生まれ。株式会社東京プライズエージェンシー代表取締役。天狼院書店店主。小説家・ライター・編集者。雑誌「READING LIFE」編集長。劇団天狼院主宰。2016年4月より大正大学表現学部非常勤講師。2017年11月『殺し屋のマーケティング』(ポプラ社)を出版。ソニー・イメージング・プロサポート会員。プロカメラマン。秘めフォト専任フォトグラファー。
NHK「おはよう日本」「あさイチ」、日本テレビ「モーニングバード」、BS11「ウィークリーニュースONZE」、ラジオ文化放送「くにまるジャパン」、テレビ東京「モヤモヤさまぁ〜ず2」、フジテレビ「有吉くんの正直さんぽ」、J-WAVE、NHKラジオ、日経新聞、日経MJ、朝日新聞、読売新聞、東京新聞、雑誌『BRUTUS』、雑誌『週刊文春』、雑誌『AERA』、雑誌『日経デザイン』、雑誌『致知』、日経雑誌『商業界』、雑誌『THE21』、雑誌『散歩の達人』など掲載多数。2016年6月には雑誌『AERA』の「現代の肖像」に登場。雑誌『週刊ダイヤモンド』『日経ビジネス』にて書評コーナーを連載。

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 「顧客目線に基づいた商品開発」「商品の質を向上させる」といったことは、どんな業種にとっても、目新しいことではないかもしれません。ですが、天狼院書店はそんな誰もが「知っている」だけでつい忘れてしまいがちなこと、頭では理解しているけど実務としてはできていないこと、そんなことを実直に積み重ね続けているからかもしれません。
 斜陽産業と言われる書店業界で成長を続ける天狼院書店店主・三浦崇典さんに、その成長戦略やマーケティングなどについて2回に渡り、お伺いしました。

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