セミナー風景

赤字企業が世界No.1に〜なぜタニタの体脂肪計・社員食堂はできたのか?〜

 ヘルスメーター売上世界No.1の「タニタ」は、体重計だけでなく、体脂肪計メーカーとして躍進する一方、健康に配慮した食事を提供する食堂事業も展開。2010年に発刊され、累計発行部数が500万部を突破した『体脂肪計タニタの社員食堂――500kcalのまんぷく定食』シリーズをご存じの方も多いのではないでしょうか?

 しかし、今では、世界企業となったタニタですが、実は1980年代には、赤字が続き、本社近くの工場を閉鎖、社員をリストラしなければならないほどに追い込まれていました。「社員は家族」という社風がある中、当時、社長の任にあった谷田大輔氏は、リストラに関する書類に判子を押せず、何日も何日も先延ばしにしたというほどに苦悩し、会社も窮地に陥っていたといいます。
 それでも、一人ひとりの社員と向き合い、彼らの再就職先を探しながらも、会社として新たな目標を設定し、V字回復。さらには世界No.1になることに成功しました。

 では、なぜ赤字企業だったタニタの経営力は向上し、逆境を乗り越えられたのでしょうか? 今回は創業家でもあり、前社長の側で改革を支えた谷田昭吾氏に、「世界No.1企業を創る成功法則〜なぜタニタの体脂肪計・社員食堂はできたのか?〜」という講演に先立ち、赤字脱却、躍進の秘訣を伺いました。

「タニタ」の家に生まれて

——今回の講演テーマ「経営力強化」についてお話しいただく前に、谷田昭吾さんのご経歴についてお伺いできればと思います。

谷田:小さなころから、父が社長を務めるタニタ社のある東武東上線沿線で育ったこともあり、大学は立教大学に進学しました。父は常々「好きなことをやれ」と言っていましたので、「これからの時代、ビジネスに必要なものは何か」を考え、システム、ネットワーク機器を扱う商社に就職。その後、タニタに入社し、国内での営業、新規事業、新会社立ち上げ、アメリカ支社への赴任などを経験しました。そして、今は、タニタで学んだ成功法則を伝える講演会や、組織の変革を目指した企業研修等を行なっています。

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赤字から「世界一企業」へ導いた谷田大輔氏の経営力

——創業家出身ということもあり、当時の社長である谷田大輔氏の経営を間近で学ばれたことと思いますが、その改革、経営力にはどのような特徴があったとお考えでしょうか?

谷田:赤字から脱却し、成長していく企業にはいくつかターニングポイントであったり、共通するポイントがあると考えています。タニタの場合でいえば、それは「赤字から脱出」「体脂肪計の発明」「社員食堂の誕生」であり、それぞれ「目標設定のコツ」「コンセプト造り」「違いを作る経営者のこだわり」というポイントを抽出することができます。

 たとえば、赤字が続いた当時、「世界No.1」という目標を掲げていたことには、私自身も大変驚かされましたが、経営に責任を持つ立場にある人間には、こういった積極的でポジティブなマインドセットが必要になるとも考えています。もちろん、マインドには生まれ持った性質という側面もありますが、後天的に身につけることも可能だと私は考えています。

 当社で行なっている研修やセミナーにおいても、ポジティブ心理学をベースにしたワークをご紹介し、参加者に実践していただいています。たとえば、「3つの良い事」という有名なワークは、5分間あればできるシンプルなものですが、これを習慣化することで、経営者だけでなく、ビジネスパーソンにも必要な積極的でポジティブなマインドを手に入れることができます。

「船だけつくる」と定めたら進化は止まる

――とはいえ、赤字経営が続いているような状態で、ポジティブに、積極的に新たなチャレンジをするというのはとても大変なことだと思います。そんな中、なぜ、タニタは、体脂肪計や社員食堂というコンテンツを次々と開発することができたのでしょうか?

谷田:実は昔、タニタは、ライターやシガレットケースの製造もしていましたが、ほぼすべての事業から撤退、あとはヘルスメーターしかないという状況にまで追い込まれていました。
そこで、製品の種類を増やしたり、販路を拡大するため、「畳専用の秤」を開発したり、学校などへ営業したりと試行錯誤を繰り返しましたが、あえなく失敗……。ご指摘のとおり、新たなチャレンジどころか、会社の存続さえ危うい状況でした。

 そんな中、ある出来事が父の脳裏をよぎったといいます。それは30代に留学していたアメリカで学んだビジネスの変遷でした。アメリカの移動初段といえば、当初はヨーロッパからの船便でしたが、その後は、鉄道、やがて車へとメインのプレイヤーが移っていきました。
その事実から、なぜ船会社が汽車や車のビジネスをできなかったのかと考えた父は、船会社が自社の事業ドメインを「船会社」と定めた時点で進化が止まってしまったのではないかという仮説を構築しました。

 つまり、「ヘルスメーターの会社である」と自分たちで決めてかかることによって、それ以外のビジネスチャンスを逃しているのではないかと考えたのです。そこで、これまでの「体重計」から「計」をとって「体重」という新機軸を生み出し、「体重とは何か」を突き詰めた結果、「体脂肪計」が生まれたのです。

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世界NO.1への原動力となった「タニタ」の社風

――今現在もタニタでは「健康をはかる」から「健康をつくる」という新たなドメインのもと、サービス開発を続けていますが、谷田さんから見て、タニタの強み、また、他の企業に活かせる点はどのあたりにあるとお考えでしょうか?

谷田:私はビジネススキルや事業ドメイン以前に、「従業員を家族のように考える」というタニタの社風に惹かれていました。工場を秋田に移転する際、父が最後までリストラの書類に判子を押すのを躊躇い、涙を流したように、タニタには、仲間を家族と考える風土があったのです。
もちろん、すべての方に納得していただけたわけではないことは重々承知していますが、工場が秋田に移転してからも、それまで勤めてくださっていた技術者達が、しばらくの間、現地スタッフの指導にあたってくれたと聞いています。

 実は、社員食堂もまた「もうリストラはしたくない」という父の強い思いがきっかけで生まれたものでした。ですから、タニタがV字回復、世界No.1になった原動力は、仲間を大切に思うタニタの精神であり、決して経営陣だけのがんばりだけで達成されたものではありません。
そうしたタニタの成功事例は、他の企業それぞれに存在する「こだわり」であったり、「強み」「風土」をいかに活かすかということに応用可能だと考えています。

 現在、タニタは新しい事業への挑戦だけでなく、働き方改革についても引き続き行なっていますが、私自身、今は外部の人間として、タニタを支えた「目標設定のコツ」「コンセプト造り」「違いを作る経営者のこだわり」、そして、働くことの意義などについても、引き続きより多くの方にお伝えしたいと思っています。

(取材・執筆 池口祥司)

プロフィール

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谷田昭吾
ヘルスケアオンライン株式会社代表取締役。株式会社タニタの創業ファミリーであり、現筆頭株主。同社の営業・新規事業・新会社立ち上げ、海外における役員経験を経て独立。谷田大輔氏(株式会社タニタ前代表取締役社長)の最も近くで、その経営学を学び、赤字企業だったタニタを成長させた「タニタの成功法則」を受け継いできた。独立後は参加者累計17,000人を超える講演会や研修だけではなく、複数の大学の授業も担当するなど、そのエッセンスを多くの人に届けるべく活動を拡げている。

イベントのご案内

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タニタの成功とクリステンセンの方法論をもとに探求する
「世界No.1企業を創る成功法則
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日時:9月25日(水)15:00~
会場:パーソルラーニング株式会社(六本木一丁目)セミナールーム
費用:無料
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