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あそこはどこにあるんだ<夫婦世界一周紀87日目>

体はここだと示しているのに、目に見える光景は九年前のそれの面影はなかった。なにしろ、宿がどこにもないのだ。サウスポイントロードという名の一本道を、サウスポイントめがけてひた走った先。右側にその宿はあった。僕のカメラでその姿を捉えているし、ゴキブリに怯えたのも、でかいカタツムリにちょっかいを出したのも、ドイツ人夫婦に世界一周のロマンを教えてもらったのも、全てあそこだ。その"あそこ"は一体どこにあるんだ。周りは森に覆われて、宿と思しき輪郭さえも見つけることが出来なかった。

かろうじて見つけられたのは、kau goldという名の、九年前お世話になった日本人ケイコさん夫妻が作ったブランド名が書かれている看板のみ。多分、そう、そこは僕が九年前夜ご飯をご馳走になって、これから建てようと思っていると言っていた大豪邸の建設途中の光景があった場所に間違いなかった。名前は同じなのに、その無人販売所でにこやかな笑みを浮かべている人は若い夫婦と、小さな子供だった。一体何が起きているのかはわからない。ただ、宿はもうなく、そして、ケイコさんもここにいないということだけは確かなようだった。

サウスポイントの光景も笑ってしまうくらいに変わっていた。シンボルだった風車が跡形もないのだ。フウロに幾度となく話した光景は見る影もなく、そこには寂しい風が吹き続けるだけだった。どうしても信じられなくて掘っ立て小屋のようなものがある場所に車を止め、思い切りジャンプしてみると、ススキの茂み隙間から大きな塊が見えた。それは風車の輪切りだった。

なるほど、これが9年の月日なのか。わかっていたことではあったけれど、僕はそのことを受け止めるのに時間がかかった。永遠なんてない。あの時の輝きは、あの時にしかないものなのだと。でも同じように、今には今の輝きもあるはずなのだ。僕はフウロと過去をなぞりに来たわけじゃない。これからハワイの魅力と来た意味を見つければいいのだ。

サウスポイントをじっと見つめて、思った。これからが、本当のハワイの旅の始まりなんだと。

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外に出ることが出来ない今、旅をできること自体に価値が生まれつつあります。僕たちが見てまわった世界はもうないかもしれないけれど、僕らが家にいる時にも世界は存在していて、今日もトゥヴァだってニウエだってある。いつか全てが終わった時に、あそこに行きたいと思ってくれる人が一人でも増えたらいいなと思って、価格を改訂しました。 無料で公開したかったのですが有料マガジンを変更することが出来なかったので、最安値の100円に設定しています。

2018年8月19日から12月9日までの114日間。 5大陸11カ国を巡る夫婦世界一周旅行。 その日、何を思っていたかを一年後に毎日連載し…

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