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ニウエという国へ<夫婦世界一周紀93日目>

飛行機を降りるとむわっとした陽気に包まれた。久しぶりの蒸し暑さだ。

シドニーからニュージーランドへ、そしてニウエへ。

旅の終盤に訪れるということもあって、ニウエについてそんなに情報を調べることはしなかった。

面積が沖縄の離島程度しかなく、人口は1000人。休日となれば刑務所が解放されて自宅に帰るという。透明度100メートルを超える海に囲まれたポリネシアの卑怯。まるで最後の楽園と言わんばかりの夢の国である。

とはいえ、ネットも覚束なくて宿泊先の候補に連絡はしていたものの、返信は無かった。空港から宿までは5キロ程度ある。迎えにきて欲しいと行ったが、ちゃんと来てくれるのだろうか。

ところが、そんな心配はご無用と言わんばかりに、到着すると生花のレイを首にかけた女性たちがぞろぞろと空港にやってきた。宿主らしい。週に二日だけしか離着陸のないこの空港で、旅行客が車で花を編み、露店を出店するのが彼女たちのルーティンのようだった。

どこかの本で読んだハワイのような光景だ。ゆったりした女性たち、強烈な花の香りがするレイ、紫色の鮮やかな衣装。ところどころにはヤシが伸びている。

ただ唯一イメージと乖離していたのは、360度どの場所にもニワトリがいることだった。野生と思しきニワトリがそこらじゅうを這いずり回り、けたたましい鳴き声を上げている。これもうーちゃんの引き合わせか、ニウエは鳥の島とも言うべき鳥大国だったのだ。

「私の娘は日本の大学で学んでいるのよ」

宿主の女性が笑いながら説明してくれた。どこに住んでいるのかも、どの大学にいるのかもわからないが、親日家のようだ。

「この国に怖い動物とか、毒の生き物とかはいないですか?」

「ここの国にはいないよ〜」

笑いながらそう語る宿主に気を許し、フウロを見てみると、ちょっと浮かない顔をしている。

「ほんとかなあ、なんかはぐらかしている感じしない?」

フウロのそういう勘はよく当たるのだ。でもこれから一週間暮らす国で縁起でもない…なるだけ気にしないことにして、僕たちは車窓から海に広がる景色を眺めていた。

石灰分で白くなった未舗装の道路に、ばんばんと生えたヤシ。その先に見える青緑の海。照りつける太陽は眩しく、うーちゃんの一件で萎んでしまっていた冒険心が満たされていくのを感じた。

ここは未知の世界が広がっているのだ。

そう、恐怖も広がっているのだ。

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外に出ることが出来ない今、旅をできること自体に価値が生まれつつあります。僕たちが見てまわった世界はもうないかもしれないけれど、僕らが家にいる時にも世界は存在していて、今日もトゥヴァだってニウエだってある。いつか全てが終わった時に、あそこに行きたいと思ってくれる人が一人でも増えたらいいなと思って、価格を改訂しました。 無料で公開したかったのですが有料マガジンを変更することが出来なかったので、最安値の100円に設定しています。

2018年8月19日から12月9日までの114日間。 5大陸11カ国を巡る夫婦世界一周旅行。 その日、何を思っていたかを一年後に毎日連載し…

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