始まらない恋の終わりに2

「何で追いかけて連絡先渡さないのよ!!」

久しぶりの親友のご尊顔でも拝むか〜と先日の一部始終を連絡してみると既読になるや否やすぐに電話がかかってきた。
今の時代、スマホ1つで簡単に顔を見ながら話せるのだから、文明の利器とは末恐ろしくもあり素晴らしいものであると思う。

「だから、そんな暇無かったんだってば〜」
「でもその本屋に行けば会えるかもしれないし、傘持ってウロウロしてみたら?」
「私怪しいだけじゃん」
「そんな事言ってたらすーぐおばさんだよ?花の命は短いんだからね!」
「まだ24だもーん」
「あんたね!四捨五入したらもうアラサーなんだから!片足は入ってるんだから」

すごく切実に訴える親友は、電話の最中であるのにも関わらず女子力を上げるべく努力を惜しまない。
今だって力説しながらこの間一緒に行ったデパートで大量に購入したちょっと高い高級美容マスクをして、全身運動が出来るからと購入したバランスボールで体幹を鍛えているのが見える。
一方で私はまたスルメを咥えてビール片手に頭には超絶ダサいからやめろと言われ続けている猫柄のバンダナをして、長い髪は後ろでゴムでまとめていて、おしゃれと言う言葉からは本当に程遠いと自分でも思うスエットを上下で着てソファーでぐーたらしている。
雲泥の差と言うのはまさにこの事であると確信がもてる。

「とりあえず明日からその本屋に通うのよ!いいわね!」
「翠が会ってみたいだけのクセに……」
「だってイケメンっぽいもん!要らないなら私が貰うわ!」
「要らないとは…言ってないもん…」

珍しく翠の言葉の棘に反応を示してしまってハッとしてスマホの画面を見ると、ニヤニヤと笑う翠の顔がイタズラをしようと企む子供みたいで何だか嫌な予感しかない。

「ま、いいわ♡明日!忘れないでよ!じゃ、おやすみ〜」

言いたい事だけ言って通話を切ってしまう翠に、少しイラッとしながらも明日を考えてしまう自分に戸惑いを隠せない。

「も〜……何なのよ……」

と言いつつも…次の缶ビールを取りにふと立ち上がった時にリビングにある全身鏡に映った今の自分の姿を見て2度見して、とても華のある20代とは思えない無惨すぎる姿に、自分で自分に驚愕。
こんな姿を翠以外に見せられる訳もなく、しばし考え込んだ末にクローゼットをひっくり返してファッションショーを繰り返し、普段やらないお手入れまで念入りにしてお風呂にも入ってプリプリツヤツヤの状態で入眠して朝を迎えた。



***



「咲々良〜」

キョロキョロと周りを見渡すと、翠がいつにも増して女子力を底上げした状態で気合いの入れ方がまるで違った。
そんな状態で1人で待ち合わせ場所にいた男子のほとんどはポーっと翠を見つめる視線が何時もより数段増えている。

「気合い入ってんじゃーん」
「別に私は……」
「ま、いいけど〜」

と余裕そうに笑う親友が、いつにも増して天使すぎて目の前がクラクラした。

「何処の本屋?」
「この先」

そんな簡単に会えるなんて事はまず無いとは分かっているつもりだったけど、本屋に近づくにつれて胸が高鳴る。
ドキドキと自分の心臓の音が耳元で鳴っているかの様に聞こえるのがうるさく感じる。

「とりあえず、本屋だし見て歩こっか」

雑誌コーナーから始まってだんだんと別のコーナーもチェックしようと言う名目でゆっくり本を眺めつつも進んで行った。
結局、カフェコーナーで買った本を捲りながらおしゃべりして、3時間ほど粘ったけれど彼はを見つけることは出来ず、グルグルと回るだけの店内で先に飽きてしまった翠とそのまま店を出てきた。

「あーん、イケメン見たかったのにー!残ねーん」
「まぁそう簡単に見つけられたら苦労はしないわよね」
「あー、もうこうなったらパーッとお酒でも飲むしかないわ!」
「えぇー」

天使な見た目とは真逆に結構パワフルな翠はもう飲む気満々で、近くのお店をスマホでリサーチし始めた。

「さ、行くわよ」

そう言って歩きはじめた翠にそのままついて行くと、来たことのない焼肉屋さんに着いた。
建物の風格からして、結構高級店なようなそんな気がした。

「すいませーん羽賀です」
「大変お待たせ致しました。羽賀様ですね、お待ちしておりました。どーぞ中へ」

普段は堅苦しいお店には滅多に来ない私たちだけど、さすが新都市の中心街なだけあって焼き肉屋と言えどなんだか敷居が高い様なそんな気までする。

「あ」

席に着いてメニュー表を開いたと同時に聞き覚えのある声がする。

「やっぱり。昨日の人だ。」
「え?」
「傘、雨濡れなかった?」

とても優しい話し方をする人だったのを思い出した。

「あ、え?あ!……昨日はその……濡れずに済みました!あ、これ!傘!」
「そのまま持ってて」
「いや、でも…」
「嫌じゃ無ければもっててよ?あ、それより和牛のすきやきとか好き?メニュー決まってないならオススメだよ」

自分でもびっくりするくらい顔が真っ赤になっていると自覚できたくらいに、カーッと顔が火照っている。

「あ、じ…じゃ、じゃあそれを」
「うん、わかった。待ってて!お友達もそれでいい?」
「はい」

と、親友の存在も忘れてしまうくらい、普段は物怖じしないのに、自分でも驚くほど同様していてしおらしくなってしまった。
ハッとして翠を見るともうニヤニヤが止まらないと言う顔をしている。

「アレは王子ね(笑)」
「別に………」
「も〜真っ赤になってるし、完全に女の顔してるもん!絶対一目惚れでしょ!!」
「声大きい……」
「ま、私は狙わないからちゃんと狙ってみたら?(笑)それに!彼も私の事なんて無視よ!眼中ないって感じだもん!絶対いいよ!」

と会話が弾んでた所に彼が注文したものを持って来た。

「お待たせ。」
「あの〜、お名前とか聞いてもいいですか〜?ちなみにこの子は花宮咲沙良でーす」

翠がここぞとばかりに間に入る気満々で私が聞きたいであろう事をストレートに聞いてくれちゃったもんだから、更に顔が熱い。

「僕は月岡夏陽です。咲沙良さん……と翠さん?」
「呼び捨てでいいです!あ、ちなみに彼女はいますか?」
「もう!翠〜!」
「ははは、ストレートですね〜(笑)居ませんよ」
「ホントですか?」
「うん。他の従業員とかにも聞いて構わないよ。ホントにいないんで」

と話し込んでしまっていると、助け舟に来たのか後ろからまた違う男の子が顔をだした。

「月岡さんはホントに彼女いないですよ?(笑)ゲイなんじゃ?なんて噂があるくらい(笑)」

短髪のちょっとノリの軽そうな感じのする男の子で、話しやすそうだけどちょっとチャラそうだなと思ったのが第一印象だった。

「え?ゲイなんですか?(笑)」
「違いますよ(笑)女の子が好きです。岸田、お前は全く!」
「あ、好みの子でした?ごめんね!あ、俺はこっちの髪の短いお姉さんがタイプです」

と岸田くんが翠に目配せをしてる。

「岸田くん?ねえ!月岡さんが咲沙良と知り合いみたいだしお店の後一緒に飲みません?」

翠も満更でも無さそうで、もうやりたい放題。

「咲沙良さんがいいなら僕は大丈夫ですよ。」
「どうする?咲沙良」
「……月岡さんが迷惑じゃ無いのなら」
「じゃ、決まり」
「何時までなんですか?」
「実は咲沙良さん達のテーブルが終わったら上がりだったからすぐ着替えてくるね」
「じゃあ食べながら待ってます」
「うん」












***









「咲沙良ちゃーん、翠ちゃーん」

岸田くんが両手を振っている。

「あ、来た」
「お待たせ」

岸田くんと月岡さんが私服姿で、制服姿とはまた違うギャップと言うやつで、岸田くんは見た目のまんま少しやんちゃ系で、月岡さんはさっきのウェイター姿とは少し雰囲気の違う感じでお洒落な感じなのにカジュアルっぽさもある様な感じなのにそこはかとなく大人なそんな雰囲気だった。
『どうする?』と4人で向かったのは岸田くんチョイスの少しお洒落なカフェbarだった。

「カンパーイ」
「改めて自己紹介だね。岸田裕也、21歳。翠ちゃんに一目惚れしました!(笑)」
「あ、金谷翠です。24歳です。裕也はタイプじゃありません(笑)」
「え!?頑張るわー」

と、翠と岸田くんはタイプが似ているみたいでちょっと今までの歴代彼氏にいない感じで気が合いそうな雰囲気がした。

「えーっと……月岡夏陽です。28歳でアラサーってやつです。彼女はいません。あ、彼氏も居ません(笑)」
「あ、えーっと……花宮咲沙良です。えと、24歳で……彼氏はいません……」

と何となく雰囲気が固くなってしまった。

「じゃあ名前ね!翠ちゃんと咲沙良ちゃん、それから僕らは裕也と夏陽さんで!」

あっとゆう間に時間は流れていて、はじめましてのまっさらな状態から数十分すぎた頃にはすっかり打ち解けている翠と裕也くんが少しだけ羨ましいと思うくらい、お酒を飲んでもまだ緊張が解けずにぎこちない雰囲気の夏陽さんと私の距離感がなんとも…なんて考えてると、不意に名前を呼ばれた。

「咲沙良?……おーい(笑)」

なんて考えていたら不意に名前を呼ばれて振り向くと夏陽さんだった。

「え?」
「あ、ごめん。呼び捨て嫌だった?」
「全然!あ、や、び、びびっくりしただけ……です」
「咲沙良でいい?」
「あ、……はい」

別に今まで呼ばれた事なんて何度もあるし、初めての体験でもない、ただあまり聞き慣れない男の人の声で名前を呼ばれるのは、何となく気はずかしいような気がしてムズムズ痒い様なそんな気がした。
それからカラオケまで行って3次会の頃には結構ほろ酔い気分で、翠と裕也くんはすっかり意気投合していていつの間にか雰囲気が甘い様なそんな感じで更に進んで一気に距離が近くなっていた。

「じゃあ俺は翠ちゃん送ってくんで」

と裕也くんと翠はタクシーで帰って行くのを見送ってから駅の方に向かって少し歩いた。

「咲沙良は俺でいい?」
「はい……お願い…します…」
「ははは、うん」

また2人になった途端に緊張しているのが顔に出てしまってるのを悟ってくれた夏陽さん。
クシャッとした笑顔がとても可愛いなと思いながら、少し後ろを歩いてついていく。

「咲沙良」

唐突に呼ばれるとドキッとする。

「はい」
「もう少し……時間ある?」
「あ、休みなんで大丈夫です」
「酔い覚まししよっか」

夏陽さんが真っ直ぐにこっちを見てる。

「はい」

緊張し過ぎて言われるがままにYESと返事を返してから、あまりにも真っ直ぐにこっちをみてる夏陽さんの瞳が綺麗で吸い込まれるのでは?と錯覚してしまう程に目が離せずに見つめ合う中で、差し出された手に気がつく。

「手貸して」
「ん?」
「早く」

少し急かされて慌てて手を差し出すと、『ん。これではぐれないね(笑)』と言われて初めて気がついた。

「子供じゃ無いのに〜……」

文句を言いながらもまだ恋人ではない人の初めての温もりに、緊張で汗が吹き出す。

「嫌?」
「……嫌ではないけど……」
「なんかやっと普通に話してくれる様になったね」
「まぁ一応年上だったんで、夏陽さん」
「あ、戻った(笑)」
「なんか夏陽さんてイジワル」
「そう?何時も優しいって評判いいんだけどなー」

ちょっとむくれて見せると、顔を覗き込む夏陽さんとまた目が合った。

「……わぁっ」

あと少しの距離でゼロ距離になりそうだった。

「ハハハ」
「え?」

呆気なく離れていく夏陽さんの笑い声に少しイタズラされている気分だった。

「帰ろっか」

仲は進展したようなそうでないようなそんな距離で、モヤモヤとした感情が胸につっかえてる。

「夏陽さん」
「ん?」
「……いや、やっぱりいいです……」
「そ?咲沙良の家、八雲だっけ?」
「はい、kohoraってマンションです」
「え?そのマンション…弟が住んでるわ…」
「え?」

急に目を見開いてびっくりした様子だったけど、その後は何も言わずに知った道だし弟の家に泊まるからと家まで送ってくれた。

「じゃあな、咲沙良」
「きょ…きょ今日は…楽しかったです…」
「うん。俺も。じゃあまたね、おやすみ」
「おやすみ…なさい」

エレベーターのドアが閉まる。

「あ、そうだ!……」
「え?」

まるで映画かドラマのワンシーンみたいに夏陽さんが閉まるエレベーターに手をかけてる。

「今度は2人でなっ」
「は、……はいっ」

たったそれだけの事なのに、嬉しそうに笑う夏陽さんの笑顔が忘れられなくなった。
こんなに胸がときめくのは久々すぎてドキドキしっぱなしで、ウキウキしながらまた思い出してを繰り返してた。

「ん〜……!!ヤバっ」



***



「それで?」
「ん?」

何日かお互いに連絡する暇がなくて数日後にやっと出来た休みの前日の金曜日に、唐突に部屋に来た翠と顔を合わせた途端に壁ドンされながら問い詰められた。

「ヤッたの?」
「え?……あー…」

分かりやすく泳ぎまくる瞳と動揺を隠せない言葉尻を聞いて頭を抱える翠。

「だ……あぁ……もう!馬鹿ね!せっかくお膳立てしたのに!!」

翠が崩れ落ちるように上にのしかかる。

「わ、……私はまだいいの!」
「いい訳ないじゃん!あんな王子様みたいな人そうはいないのよ!男の人が送るっていう意味くらい、経験無いわけじゃないでしょ?裕也なんて……いや、なんでもないわ」

と言いかけてちょっと考えている翠。

「裕也くん、どうかしたの?」

逆に問うと更に翠の体重がのしかかる。

「……それこそ…いいのよ私は……」
「ん?」

珍しくごにょごにょとハッキリ言わない翠に『聞こえない』と強めに言うと、何度目かでやっと聞こえた言葉に驚いた。

「……あんな奴……もういいの!私から願い下げよ!」

不貞腐れている様なそうでも無いようなそんな態度で、いつも強気と言うかチャンスと有れば『釣った魚は逃さない!!』と何時でも恋愛体質なのに、いつになく弱気だ。

「なんで?」
「だって……」

初めて会ったよく知りもしない女の人とその夜に…って言うシチュエーション的にはまぁ…なんて考えちゃう気持ちは分かる気がする。

「そりゃあ、連絡はマメに来るけど…それはホラ、ね?好みの女の子が物珍しいってそれだけよ」

肩を抱きながら顔を見るともう真っ赤になっている翠はすっかり女の子の顔だった。

「いつもはすぐはじめるくせに!意地張ってないではじめちゃえば?」

なんて言ってると裕也くんから着信だった。

「出なよ」
「うん……もしもし?……え?困る……家だけどひとりじゃないから今」

意味深な言葉で少しだけ話してる内容が分かった。

「帰るね」

と立ち上がったと同時にインターホンが鳴った。

「え?だ……ダメ!開けないってば…」

私は『裕也くん?』と問うと黙って頷く翠の顔が真っ赤で、これは人肌脱いでやるかと決意してドアの鍵を開けると、案の定焦った顔の裕也くんが立っていた。

「な……んだぁ…咲紗良さんかぁ……」
「来ないでよ」

ツンとした声で翠がむくれている。

「翠に会いたかったから来た」
「あたしは…誰かの大切な人を取ったりなんてしたくないだけよ…もういいから帰って!!」
「誤解だって!あれはタダの幼なじみだから!」

何となく会話の意図は読み取れたから、とりあえず中で話す事にした。
よくよく話を聞けば、あの夜、4人で遊んで翠と裕也くんが2人で裕也くんのマンションに帰った日、2人は友達という壁を越えていた。
そのまま朝を迎えて、先に起きた翠が朝食の準備をしている時に事は起こったらしい。
そろそろ起こそうか…なんて考えていると、ガチャガチャと裕也くんの部屋のドアの鍵が開いたので『え?なに!?』と怯えてると、リビングのドアが開いて、『ただいまぁ〜裕ちゃーん』と女の子が酔っ払って帰ってきたのだ。
普通に考えれば、シチュエーション的に不味いのは翠の方だと瞬時に察知するも驚きすぎて動けずにいた翠に気づかずに、その女の子は寝ている裕也くんの上に乗って上半身に着ていた服をおもむろに脱ぎ始めてそのまま裕也くんのそばで寝息をたてて寝始めたと言う。
完全にド修羅場な展開すぎてまさに開いた口が塞がらないとはこの事で、翠はそのまま怒りに身を任せ裕也くんの部屋を飛び出してからその後一切の連絡もせず現在に至るという訳である。

「あいつ本当に酔うとまぢで見境ないんだって!それに彼氏ちゃんと居るし!俺は翠だけ!信じてよ!」

まぁよくある展開の修羅場だなぁと傍から見ている私ではあったけど、十中八九裕也くんの言葉を信じる女なんて多分この世にいないだろうって事で、とりあえずここは翠の方に全面的に味方をするべきだと判断し間に入る。

「まぁ裕也くん、それを鵜呑みにして信じるほどもうピュアな年齢ではないからさ。うちらも大人なんだし、後日その子と彼氏が居るなら含めてお酒飲もうよ」

と、提案すると納得してない感じではあったものの了承して『急に来てごめん。でも俺は翠が好きだから』とだけ言って引き下がってはくれた。

「も〜…」
「ありがとう…」
「裕也くんとは…しばらくはウチが連絡取って次の日程決めて話すよ。翠もちゃんと決まったら来るのよ?」
「……うん…」

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