第45回ピティナ・ピアノコンペティション 特級二次 1日目

齋藤陽花さん、山田ありあさん、藤澤亜理紗さん、浦野未友花さん、進藤実優さん、岸本隆之介さんを聴いた。

足を運んだ理由は、進藤実優さんを実演で聴きたかったから。

進藤さんの事は昔からネット上で知っていて、バラード1番やラ・カンパネラなどを、まだ本当に子供のころ弾かれていた動画を見たのが初めてだと思う。

熱心な演奏をされる方だなという印象で、その後も福田靖子賞選考会、浜松国際ピアノアカデミー、クライバーン国際のジュニア部門などの動画で演奏を拝聴してきた。
特にクライバーンでのスペイン狂詩曲はスケールが大きくてかっこ良かった。
https://youtu.be/Vjo6LaZ8j7A

僕がコンサートで感じたいものとは違う音楽かもしれない、とずっと思っていたけど、先日のショパンコンクールの予選予選で演奏された17-4、イ短調のマズルカがちょっと.......ちょっとうまく説明できないけど素晴らしく引き込まれて、特級二次に出られるのは知っていたので、いてもたってもいられずチケットを取った。


特級一次は今年も映像審査で、しかもYou Tubeで公開されている。

進藤さんは必要最低限を除いて全てショパンで固めたプログラムになっている。

一次は思い切った選曲で面白い。
イタリア協奏曲1楽章、ベートーヴェン5番の1楽章、ラフマニノフの鐘、ラ・カンパネラ。

動画越しで何がわかるのかと言われてしまうけど、和音の弾き方・響き方などがはっきり他の方と違う感じで面白かった。
そしてどんな曲でも感じる独特な溜め。

二次は満を持してオールショパン。

特級二次はプログラムに記載されている曲目が演奏順ではないので、ライブのような楽しさがある。

進藤さんの場合、プログラムにはこういう順番で記載されている。

エチュード25-6
バラード3番
ノクターン13番
舟歌
エチュード10-1

舟歌かバラード3番のどちらかを削ればまんまショパンコンクールの一次予選、という感じだ。

開始はノクターンと予想したけど、実際はバラード3番。

じっくり時間を取り、鍵盤の上に指を置いたところで、客席で雑音があり、そのままで静止。

静寂が戻った後、Esから開くようなフレーズが展開された。


冒頭の長い沈黙、指を置いてまた静止、と音楽が固くなるのではと危惧していた。
ただでさえコンクールのステージの1曲目はぎこちなくなりがちだから。

そんな凡人の懸念は全くの杞憂だった。


話がズレるが会場は上野学園石橋メモリアルホール。
素人の僕の耳には、席の場所によっては不快なほど残業が長く大きく、うるさい。

後述するけど1人目の齋藤さんがホ短調のトッカータを弾き始めた時、音があまりに大きく響いたのでびっくりしてしまった。
進藤さんの前に4人聴いたけど、pp、pを感じる瞬間がちょっとなく、響きまくっていた。



何か僕の耳にバイアスがかかっているのかと思うほど、進藤さんの冒頭は澄んでいて滑らかではっとした。

直前までこのピアノ弾いてた???と思うほど自然なコントロール。


進藤さんの音楽は「既に存在する大きな流れに入る」というより、「無・静寂から生まれる」音楽だな、と素人の僕は予備予選で感じることが多くて、バラード3番はそのスタイルにハマりすぎるくらいハマっていたように感じた。


断片的なモチーフが徐々に大きなうねりになっていく様、そして滑らかな転調が自然に、だけどはっきりと空気を変えていく。

As-B♭のトリルから、A-Hのトリルに移り変わってC-durに転調していくところ、本当に魔法のように音色が変わって、夢みたいだった。
幸せだった。

バラード3番だけで聴きに行った価値があった。
拍手したかった。


次がノクターン。
先程の妄言、「無・静寂から生まれる音楽」、というスタイルが、このノクターンの冒頭には、バラード3番ほどハマらないような気が個人的にした。

単純に物凄くテンポが重い(ただし再現部は切迫感を持ってかなり巻く)。

音楽がものすごく強いので緊張感は切れない。
中間部のコラール風の部分も、アルペッジョの神経が行き渡っていて美しい。

次がエチュード10-1。
これもめちゃくちゃ素晴らしかった。
エチュードは流石に冒頭からインテンポ。
音楽の強さに隠れがちな、ペダリングと指先の繊細さが如実にあらわれていたように思う。
バスも朗々として気持ち良かった。
ショパンコンクールとかでよく聴く、再現部の前あたりの異様な溜めもなく、爽やかだった。
拍手したかった。

続いて25-6。
冒頭ノンペダルかかなり浅めなペダルで粒が見えた。
テンポが早く正確に弾かれているはずだけど、流石にホールの残響が強くて全部が全部聞き取れた訳ではなかった。
ショパンコンクールで左手を補助に使う人が続出して、海老先生が怒り狂った(語弊)、コーダ前の右手の下りは、ばっちり片手でした。

ラスト、舟歌。
素人の自分には予備予選でわからなかったもの。

最初のテーマからかなりルバートをかけて歌われるのだけど、伴奏が割と定型化された形なので、その部分だけが引き延ばされる。

ショパンのルバートは本当にわからない。
確かリストが言った、左手は揺るがず、右手だけが自由に揺蕩う演奏なんて、今まで一度も聴いたことがない。
想像もできない。

舟歌は各所のテンポ設定がまだよくわからない。
一番美しい再現部前のuna cordaの部分もグッとテンポを落とす。
これはする人が多い。
直前の和音の和声の遷移が丁寧に表現されていて素敵だった。
意図的なものかコントロールを失われたのかわからないけど、長い装飾の頂点をキン!と強調される。
ラストの山の最高音のFisとか。

総じてすばらしかった。
いい意味でまだ更に音楽と精神が深まっていくだろうという雰囲気があるのがすごい。


帰って配信アーカイブを聴き直し衝撃を受ける。
全然違う!
配信は響きがないのですごくクリアに聞こえる。
音色は逆に色褪せて聞こえる。
当たり前だけどデジタルだ。



noteという名のチラシ裏。
チラシ裏としてのnote。

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