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連続小説1『とある野良猫の一生①』

前回に引き続き登場するのは、ねこさん達です!!
けど、前とは違う猫たちの話だよ~。

今日の主人公、緑色の目をしたサビ色の猫は、目が悪いながら独りで精一杯生きています。
彼にはには名前がありません。
いや、忘れてしまったと言ったほうが正しいかもしれない。
......

「行かないで!兄さん!母さん!僕を置いて行かないで!」

遠ざかっていく母の大きくて暖かい体と、兄と姉の小さな体を追いかけながら、僕は叫んだ。

兄と姉は母の後ろを、嬉しそうに尻尾をピンと立てながら小走りでついていく。

まるで僕なんか忘れてしまったかのように。

パチッ

......嫌な夢を見た。

あれからもう2度も〈暖かい時〉を過ごしたというのに、未だにこんな夢を見るのは、僕がまだ兄さん達のことを忘れられないからだろうか。

僕は、親と兄弟に捨てられたのだ。

2度ほど前の〈寒い時〉、朝起きると僕らの家の中には、僕以外誰もいなくなっていた。

外を探しても居ないから、僕は家の中で待ってることにした。

僕は目が悪いから、母さんと兄さんと姉さんは時々、3人で出掛けることがあるんだ。

でも、〈光〉が過ぎて〈闇〉が来ても、みんなは帰ってこなかった。

だから僕は確信した。

「見捨てられたんだ」と。

理由はわかっている。

僕の目がよく見えないことで、よく母さん達に迷惑をかけていたからだ。

母さんや姉さんに裏切られたこともショックだったけど、何より一番信じていた兄さんにも見捨てられたことが一番辛い。

不安なとき、いつも傍にいて慰めてくれたのは兄さんだったのに。

このことがあってから、僕は一人で生きていくことに決めた。

でも、目の不自由な僕一人での生活は、大変という言葉じゃ言い表せないほど辛く、苦しいものだった。

「もういっそ、何もかも諦めてしまおうか」

そう思い大地に身を委ねかけた矢先、目の前に一人の幼い人間の少年が表れた。

「ねこさん、たおれてるう。ぱぱとままにみせなくっちゃ!」

それから、少年の言う「まま」に僕は「びょういん」という所に連れていかれ、針を刺された。

正直「びょういん」には、もう二度と行きたくないと思った。

そして僕は、少年の家の飼い猫になったんだ。

少年の名前は「ケンタくん」というらしい。

ちなみに僕は-少なくともその家にいる間は-「ねこさん」と呼ばれていた。

僕はケンタくんの家で、とても幸せな時間を過ごした。

ケンタくんが歩いたら、僕も歩く。
ケンタくんが走ったら、僕も走る。
ケンタくんが「ねこさん、おいで!」と言うと、僕はケンタくんの元へ走っていく。

そんな、ありきたりで幸せな毎日を、僕は過ごしていた。

だけど、その幸せも長くは続かなかった。

ある日僕は扉の前でぱぱの帰りを待っていたんだ。

そしたらケンタくんが走ってきたから、「危ないよ」って言おうとしたのにケンタくんは転んじゃって...。

僕の尻尾に、ケンタくんの腕が勢いよく当たっちゃったんだ。

僕はその時、初めてケンタくんに噛みついた。

別に怒っていた訳じゃない。
ただちょっと、びっくりしただけ。

でも、ちょうどその時ぱぱが帰ってきて、僕の首根っこを掴むと外に放り出した。

「もう帰ってくるな」

ってね。

僕は悲しくて、泣いた。

ケンタくんがぱぱに向かって何か言う声が聞こえたけど、何て言っているのかは聞こえなかった。

この日から僕は、もう誰も信じないことにしたんだ。

信じていた兄さん達は僕を捨てて出ていったし、

信じていたぱぱも、たった一度の僕の過ちで、僕を家から追い出した。

風も、水も、空さえも信じられなくなっていた。

「信じる」ということは、「我が身を委ねる」ことに似ていると僕は思う。

信じていた者の言動で、未来すらも変わってしまうかもしれないからだ。

もう〈暑い光〉は沈みかけている。

そうして僕は、この町外れの、誰も住んでいない家の下で暮らすことに決めた。

~続く~

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