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連続小説1『とある野良猫の一生②』

まえがき

『とある野良猫の一生①』の続きです。

まだ①を見ていない人はぜひ見てから、またここへ戻ってきてください。

じゃないと後悔しますよー(笑)

それでは本編へどうぞ。

……

僕は、町はずれの誰も住んでいない家の下で、一人で暮らすことに決めた。

<暖かい時>と<寒い時>はどうやら、交互にやってくるらしい。

そのことに気が付いたのは、新しい住処へ来て二度目の<暖かい時>だった。

この家に住んだばかりの頃は、目が悪いせいで鼠を捕ることもできなかったから、近くに寄ってきた虫を食べて生き延びていた。

正直、美味しいとは言えなかったけど。

でも最近は、鼠もとれるようになったんだ。

成長したってことだろうか。

僕は今日も鼠を食べ眠りにつく。

独りの生活が、今ではすっかり当たり前だ。

でも。信じることを忘れた僕には、何が幸せかなんて、分からなくなっていた。

或る日、僕の家に人間が引っ越してきた。

僕に害を与えるようならこの家からは出ていこうかと思っていたが、幸い何もされそうにないから、出ていかなくて済むかな。

僕の家(の上)には、女の子と、その母らしき人間と、一匹の雌猫が住んだ。

僕は、雌猫を母さんと姉さん以外見たことがない。

だから、この雌猫のことを知りたくなった。

次の日僕は、意を決して雌猫に会いに行った。

家の周りを囲んでいるレンガの塀にのぼると、そこから縁側が見える。

そこには、真っ白な毛並みの雌猫が気持ちよさそうに寝そべっていた。

レンガの上からでは偉そうだと思われるかもしれない。

そう考えた僕は、音もなく縁側のそばに降り立った。

「こ、こんにちは。君の名前は?」

僕は雌猫を見つけるなり、そう問いかけた。

「失礼ね。そういうときは普通、自分から名乗るものよ」

「ごめん。僕の名前は

ーあれ?僕の名前は何だろう?ー

名前か。僕には名前が無いんだ。好きに呼んでくれて構わないよ」

「あら、そうなの。私はシロよ。あなたは…目が緑色なのね。リョクって呼ぶわ」

「僕は、目が緑なのかい?」

「ええ。自分の顔を見たことないの?」

「うん。自分の姿なんて、考えたこともなかったよ。」

「そこの水たまりを覗いてごらんなさいよ」

”リョク”は、魚が泳ぐ大きな水たまりを覗いてみた。

するとそこには、緑色の綺麗な目をしたサビ色の猫が、こちらを覗き込んでいた。ぼやけてはいたけど。

「これが…僕?」

「そうよ。あなた、結構いい顔してると思うけど」

そう言うと、シロは初めて笑みを浮かべた。

「綺麗だ…」

思わずそう、つぶやいてしまった。

「ん?何か言った?」

幸いシロには聞かれていなかったようだ。

「い、いや、何でもないよ!うんっ、何でもないない!」

誤魔化すことでもないのに。僕は慌てて取り繕った。

シロと話していると、心が宙に浮いているみたいな、変な気持ちになる。

何だろう。こんな気持ち、初めてだ。

「どうしたの?顔が赤いわよ」

「へっ?」

「シロちゃーん、ごはんだよー!どこにいるの?」

ふいに人間の女の子の声がした。

「じゃ、じゃあ僕はもう帰るよ!」

僕はそう言うと、元来た道を急いで帰った。

その夜。僕はずっとシロのことを考えていた。

楽しかったなあ。

可愛かったなあ。

明日も会えるかなあ。

考えただけで心臓が高鳴る。

そうだ、明日は花を持って行ってあげよう。

そしてリョクは、眠りについた。

次の日、リョクは桃色の可愛らしい花をくわえて、シロの元へ向かった。

「や、やあ!シロ!」

やばい。声が裏返った。

「ふふ。なに緊張してるのよ。私達、もう友達でしょ?」

友達。他人でも知り合いでもなく、友達。
純粋に、嬉しかった。

「友達…。あ、そうだ。これ、君にあげるよ。君にぴったりな、可愛らしい花だよ」

「まあ!ありがとう、リョク」

そういった彼女は、ほんの少し頬を赤らめた気がした。

「ねえ、リョク。私、貴方の事がもっと知りたいわ」

「よおし。じゃあ、僕のとっておきの冒険話を聞かせてあげよう」

その日、僕らは<闇>が来て綺麗な満月が表れても話し続けた。

それから毎日、僕はシロに会いに行った。

僕はたくさん、自分の事を話した。

目が悪くていろいろ苦労したこと。

兄さんのこと。

好きな食べ物。

そして、家族に見捨てられ、独りぼっちになったこと。

シロは言った。
「今は私が居るから、リョクは独りじゃないよ」って。

「リョクの家族も、きっと何か理由があったんだよ」
とも言ってくれた。

シロも、たくさん自分のことを話してくれた。

僕が話して、シロが聞いてくれる。
シロが話してくれて、僕が聞く。

どこにでも在りそうで、ここにしか無い日常が、たまらなく愛しかった。
こんな日々が、いつまでも続けばいいと、切に願う。

~続く~

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