見出し画像

鬱の歌

四首のうち三首は再掲です。「鬱」の歌を集めて加筆しました。

■ Ⅰ

とりとめもなくなつかしい手触りのたとへば耳たぶのやうだ 鬱は

君のおなかに顔を埋めているやうな やはらかきやはらかき 鬱

やわらかい取り留めもないものとして「鬱」を詠んでみました。
「耳たぶ」「おなか」。
人肌の温みとともに、どこか懐かしい閉塞感。


ネットの検索ですが、「鬱」の解字は次のように書かれていました。

《解字》 会意兼形声。鬱の原字は「臼(両手)+缶(かめ)+鬯(香草でにおいをつけた酒)」の会意文字で、かめにとじこめて酒ににおいをつける草
鬱はその略体を音符とし、林をそえた字で、木々が一定の場所にとじこめられて、こんもりと茂ることをあらわす。中に香りや空気がこもる意を含む

WEB広辞苑無料検索

そこに隠れ込んで埋もれてしまいたいような「隠れ家」かもしれません。



■ Ⅱ

驟雨いま晩夏の街を白く打ち すばやく耳ゆ すべり入る鬱

広重の雨 その明確な直線の 鋭く鬱は さし迫りにき


この二首は、激しい「鬱」を詠んでみました。
一首目は、夏の終わりに 突然の驟雨がアスファルトを叩きつけている。
忽然と胸に走った緊張と、押しつぶされるような圧迫感。
なぜ不安なのだろう。
わかるわけもないのに、どうしても、そう問うてしまう。
二首目も同じ趣。歌川広重のイメージを借りて、それを序詞とし、「うつ」という掛詞で「鬱」につなげてみたものです。

みなさんにとって、「鬱」はどちらのイメージでしょうか?


こんな言葉を見つけました。
哲学者ウィトゲンシュタインが自らの言語論理を、滑らかな氷の上の世界に喩えて、こう表現したそうです。

そこには摩擦がなく、ある意味で条件は理想的なのだが、しかし、だからこそ我々は歩くことができない。我々は歩きたい。そのためには摩擦が必要なのだザラザラした大地に還れ!

『哲学探究』


すると、僕らは「鬱」であっていいのかもしれません。

僕の概ねの心持ちは、天気予報で言えば「曇り時々晴れ」みたいな感じと言えばいいでしょうか。
時々、いいことがあります。それが大事な気がします。withコロナならぬ、with鬱といったところでしょうか。


台風が近づいています。みなさん、お気を付けください。

この記事が参加している募集

#今日の短歌

39,255件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?