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第282話:🟢鬱の心象:短歌


鬱の歌を4首集めてみました。


■ 鬱とは。


とりとめもなくなつかしい手触りのたとへば耳たぶのやうだ 鬱は

君のおなかに顔を埋めているやうな やはらかきやはらかき 鬱


やわらかい取り留めもないものとして「鬱」を詠んでみました。
「耳たぶ」「おなか」。
人肌の温みとともに、どこか懐かしい閉塞感。


ネットの検索ですが、「鬱」の解字は次のように書かれていました。

《解字》 会意兼形声。鬱の原字は「臼(両手)+缶(かめ)+鬯(香草でにおいをつけた酒)」の会意文字で、かめにとじこめて酒ににおいをつける草
鬱はその略体を音符とし、林をそえた字で、木々が一定の場所にとじこめられて、こんもりと茂ることをあらわす。中に香りや空気がこもる意を含む

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そこに隠れ込んで埋もれてしまいたいような「隠れ家」なのかもしれません。



■ あるいは、鬱とは。

驟雨いま晩夏の街を白く打ち すばやく耳ゆ すべり入る鬱

広重の雨 その明確な直線の 鋭く鬱は さし迫りにき


この二首は、激しい「鬱」を詠んでみました。

一首目は、夏の終わりに 突然の驟雨がアスファルトを叩きつけている。
忽然と胸に走った緊張と、押しつぶされるような圧迫感。
なぜ不安なのだろう。
わかるわけもないのに、どうしても、そう問うてしまう。

二首目も同じ趣。歌川広重のイメージを借りて、それを序詞とし、「うつ」という掛詞で「鬱」につなげてみたものです。

みなさんにとって、「鬱」はどちらのイメージでしょうか?



■こんな言葉を見つけました。

哲学者ウィトゲンシュタインは、自らの言語論理を滑らかな氷の上の世界に喩えて、こう表現したそうです。

そこには摩擦がなく、ある意味で条件は理想的なのだが、しかし、だからこそ我々は歩くことができない。我々は歩きたい。そのためには摩擦が必要なのだザラザラした大地に還れ!

『哲学探究』

すると、僕らは「鬱」であっていいのかもしれません。
生きること自体がすでにザラザラした営みであって、それが人の本来の姿だと。


僕の概ねの心持ちは、天気予報で言えば「曇り時々晴れ」みたいな感じと言えばいいでしょうか。
時々、いいことがあります。それが大事な気がします。
一病息災? withコロナならぬ、with「鬱」といったところでしょうか。


生きるのが大変な現代、鬱にならない方がおかしいのかもしれません。


■土竜のひとりごと:第282話

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