見出し画像

第67話:ニフニフ努力する

ここのところずっと3年生の担当ばかりで、生徒との付き合いはとても短く、毎年のこと、特に4月、5月は生徒にとって僕が「知らないおじさん」でしかない状態を早く脱し、猛ダッシュで僕のいい加減さを理解させなければなりません。そのためによく使うのが次の話です。

とても読みにくいと思うので画像の後に本文を活字で打ってあります。まだ30代だった頃に書いた愚話ですが、もしお読みいただければと思います。


以下、活字にしてみました。

活字でしか僕の駄文に接したことのない読者の方々のために、今回は僕の僕の直筆でこの愚話をお届けしたい。
僕の字はかような字で、ご覧の通り素晴らしい字なのである。実は本当の僕の字はもっと素晴らしい字なのであるが、あまりに達筆すぎて、ついこの間も銀行でちょっとした手続きをしたところ、「何とお読みすればよろしいのですか」と尋ねられ、生徒も三文字に一回くらい僕に確認を取る有様なのである。
これはそんな生徒の「読めない」という声に応えて、黒板用とプリント用に開発した、世を忍ぶ仮の文字ということになる。

この字に関して、読みにくい、目がチカチカする、国語の教師としては情けないなどという不届なことを言う輩もいるが、一方で、読みやすい、きれい、という評判も多い。図形的、記号的と評する人もいるし、「なかなか、かわいい」と女の子たちは言ったりする。女子高生に「かわいい」などと言われると胸がドキドキしてしまったりなんかするわけだが、印刷物をロウ原紙に鉄筆で書いていた時代を知っている人は、ガリ版的な字と言ったりもする。
要するに普通の文字とは若干趣きの異なる角ばった文字で、ハネ、ハライは全くなく、曲線部分が極度に排されていることがこの字の最大の特徴と言える。
昔から「字はその人をあらわす」とよく言われるが、だとするとこの字には、僕の曲がったことが嫌いな誠実で几帳面な性格がよく滲み出ていることになる。まさにその通りなのである。

唯一無二の欠点は、そういう字の特性上、若干の混同による誤解が生まれやすいということで、「あいうえお」の「」は数字の「11」に似ているし、「さしすせそ」の「」は「ラリルレロ」の「」と、また「あいうえお」の「」は「ラリルレロ」の「」に感動的なほど似ていると言った具合で、「ルート」と書いて「るーと」と書いたつもりが「1レートって何ですか?」などというとんでもない質問を受けたりもする。(画像をご覧ください)
一卵性の双子を見分けるのと同じで、慣れてくればそれなりに区別はつくし、大概は文脈で文字は読まれるわけだから、読み間違ったとしてもそれが必ずしも僕の責任と言えるわけでもない。僕の字を真似てテストでバツを喰らったという訴えもたまにはあるが、漢字のテストで跳ねるところを鼻なければ当然バツになる。真似する方が僕は悪いのだと思う。

つい最近のことだが、この字にまたくだらぬ混同によるクレームがついた。3年の担任で調査書を書いていたときのこと(注:まだ手書きの時代だった)(この調査書というのは、自分で書いたものが、学年主任、進路課長、教頭と三重のチェックを受け、間違いがあると訂正されて返ってくるのだが)、ある時、教頭が

土屋さん、『にふにふ』っていうのは一体何だね?

と尋ねてきた。「にふにふ」などという言葉は耳慣れぬ言葉で、そんな言葉を書いた覚えはないと怪訝に思って教頭の指さすところに目をやると、そこには「こつこつ努力を積み上げる人柄だ」と書かれている。(画像をご覧ください)

要するに、「こつこつ」を片仮名で「ニフニフ」と読み誤ったことになるわけだが、誰も努力は「こつこつ」とはしても「ニフニフ」とはしないわけで、そんな副詞が存在しないことは誰だって知っている。全くとんでもない読み間違いであり、僕の字に対する冒涜だと言ってよい。さらに「書き直した方がいいよ」とあっさり教頭は言ってのけたのであって、僕は10分程も、どうしたらこの字を「コツコツ」と読んでもらえるのか試行錯誤を繰り返したのであった。

いろいろなことがあるにはあるが、もうこの字とは10年来の付き合いということになり、10年も付き合うとそれなりの愛着も生まれてきたりするものである。60歳を迎える頃になっても、まだこの字を黒板に書いて笑われているのかと思うとちょっと不安にもなるが、とりあえず「にふにふ」などという悲しい読み違い(カミさんはこれを「ふたつふたつ」かと思ったとふざけたことを言っていた)をせぬようお願いして、この愚話の締めくくりとしたい。


「こつこつ努力する」「ニフニフ努力する」・・おバカな話ですが、生徒は単純に喜んでくれます。

そこで、ついでにクイズを出します。
「ある殺人現場に被害者が自分の血で書いたこんなダイイングメッセージが残っていた。犯人の名前を示しているらしい。さて、犯人の名は?」と。

     1  +  11   =

ヒント1:極直線の僕の字を思い返してください。
ヒント2:ひらがな三文字です。

 ↓
これならわかる!
ヒント3:「1+」「11」「=」

答え
 ↓




そう、「けいこ」です。


蛇足的に追加してみたのですが、いかがでしょうか?


(土竜のひとりごと:第67話)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?