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第114話:青天の霹靂

青天の霹靂という言葉がある。

それが青天の霹靂であったわけでもないのだが、ちょうど去年の今頃、オオスズメバチに刺された。

今勤めている学校のテニスコートは山の上、かつてあった城の二の丸址にある。自然に囲まれた素晴らしい環境と言えば言えなくもないが、実際は自然との闘いで、草はバンバン生えて来るし、落ち葉もガンガン落ちて来る。お堀跡から発生するのだろう、蚊に刺されまくり、ここ数年は、タヌキやハクビシンが出て来たり、イノシシまで出没するようになった。

台風が通り過ぎた翌日は、周りの木から葉っぱの付いた小枝が、コートを埋め尽くすほど舞い落ちて来て、去年もその片づけをしていた。フェンスで仕切られた向こう側は山だから、落ちてきた太めの枝を外に向かって投げ込んでいると、ハチが飛んできた。
そこに巣があったのだ。その飛んで来たハチを思わず持っていた箒で払いのけてしまった。
しまったと思ったが、さらに慌てて逃げようとすると、背中を刺された。

一応病院に行って治療してもらったが、次に刺された時、アナフィラキーショックを起こす可能性があるから刺されてから30分以内が勝負ですと恐ろしいことも言われた。
業者に連絡を取り駆除してもらったが、業者が「オレが扱った今年最大」というほどの大きさで、2000匹位はいただろうと言う。後で現場に行ってみたが、木の根の部分の洞から地中にかけて2メートルほどの穴が開いていた。部活指導も命がけである。


ところで、以前にもハチに刺されたことがある。

養護学校(今では特別支援学校と言う)に勤めていた頃のことで、もう20年も前のことになる。それは、朝、学校に行こうとジャージをはいたときに起こった。出勤なのにジャージに着替えるのを変だと思われる方もいられるかとは思うが、養護学校ではジャージが教員の制服みたいなものである。

左足を突っ込み、右足を突っ込んで、ヨイショと腰まで持ち上げた瞬間、鋭い痛みが左太股に走った。
「イテッ!何だ!」針で刺されたような鋭角の痛みである。慌てて、しかし、そっと痛みの走ったところに手をやり、恐る恐るなでてみた次の瞬間、「イテッ!」再び同じ痛みがさっきとは少し違うところで起こった。
「何だ!」わけのわからぬまま急いでジャージを膝まで下ろすと、なんとそこからノソノソとミツバチが2匹出てきた。

そのジャージはその前日、カミさんが洗濯して畳んであったものだが、物干し場の脇にはカミさんが丹精している花壇があって、四季折々にいろいろな花を咲かせている。蜂はそこに蜜を吸いに来て、ジャージの中に入り込んだものらしい。
閉じ込められていたところに、脚が入ってきてパニックになり、刺したものと思われる。蜂も驚いただろうが、僕も驚いた。まさかジャージの中に蜂がいるなど考えもしないことである。

でも、それが青天の霹靂だというわけでもない。

学校に行くと、刺されたところがかなり腫れてきたので、一応保健室に行って、その旨を保健室の先生(養護教諭)に伝えた。
その先生は誰にも好感を持たれている、若くて美しく、明るい女性であり、「スズメバチじゃなければ大丈夫だと思います。心配だったら病院に行ってください」と心配してくれた。

が、続けて、

「でも先生、TAMAじゃなくて良かったですね」

と、さらっと言ってのけた。

僕は、白昼カミナリに打たれたようなショックを覚えたのであり、「ああ、これが青天の霹靂というものであろう」とその時、得心したのだった。


■土竜のひとりごと:第114話

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