見出し画像

けつあな☆親子DON

友達がみた夢を書きました、○○○○確定のワード事態は実はちょっと別の友達とのことでミュートしてたりします。

 (この物語を友人に捧ぐ)
「なんてことしてくれるんだ!こいつ!」
スマホを握っていた手が震える。SNSのタイムラインでは俺の大好きな大好きな「けつあな」がおもちゃになっていた。
 俺はスマホを置いて苛立ちのあまり地団太を踏む。
 けつあな確定。……それは、三年遡る。
 俺は腹が減って街に出た、うらびれた商店街にいつもある食堂。入ったことなかったな。きっかけはそんな感じだった。
 店主は「鶏肉も豚肉と同じぐらい捨てるものがない」と言って、ある希少部位を食べさせてくれた。
 けつあな。
 デリケートな肛門の周りは、丹念に育てられた鳥のものではないと固くて食えないのだという。店主はそれを唐揚げにしてくれた、一口、がぶり、見た目はイカリングのように見えるがもっとずっとクリーミーで歯ごたえもありしっとりとしていてそれでいてクリスピー。黒コショウ、それにニンニクが効いている。
 うまい。理解した俺は次々に親父の進める希少部位を食べた、目玉のスープ、くちばしのサラダ、食道のソーセージ、血のゼリー、羽のフライ。それからは毎週、二日起きにはそこに通い、主にけつあなを食べた。
 それがこうなった。たしか、きっかけは何かのブログ。急にマリトッツォ(もう見ない)のように注目されたのだ。
 SNSではそのままで十分美味なはずのけつあなにチーズや鶏団子、時には豚肉団子を入れパンに挟んでケチャップをかけジャンクに食べていた。コンビニに並びスーパーに並び。それだけではない、けつあなはフレンチに出されゼラチンで寄せられ高級食材に躍り出て、「けつあな確定」といえばついに高級レストランでの食事の約束を指すことになった。
「今日は?」
「いつものけつあなで」
「ないよ」
店主は不機嫌そうに背を向ける、当たり前だ。今までけつあなに対しこれほど拘りと愛情を注いできた店主を差し置いて、世間はけつあなに浮かれている。高級品と低級品に分け、粗末に扱い、うずらの卵なんか挟んで食べている。
「じゃあ……」
店の壁に貼ってあるお品書きを見る、いつものメニュー。店主のことを考えると俺も食欲を少し無くした。はがされたけつあなのお品書きのところに、「ゲルマル」というのがあり、あとは手羽先しかなかった。
「あの……」
「テレビ、見たよね?」
店主と俺の会話はそれだけでよかった、けつあなブームはすぐにこの店の所在を確かめると、あっという間に人気店にして、本来がデリケートで丁重に扱うべきそれを、丹念に育てられたもののでないと食べられたものではないはずのそれを、客は早く出せ、沢山出せ、安くしろと散々暴言を吐いた。人気で俺もしばらく入れなかったものだ。
 暴言の客はさんざんレビューを荒らし、幸いすぐこの店の人気も落ち着いた。後にはレビューの点数が低いこの店。
 沈黙が痛い。
「じゃ、ゲルマルで」
言って、しまった、と思った。そんなドラクエのベビーパンサーのような名前の部位、聞いたこともない。いや、この店主の拘りは知っている。そしてこの店主の進める部位はみんな美味いはずだ。
 なのに、頭の中のベビーパンサーがどいてくれない。ビアンカと助けたあの、旅の日々。店主はたぶんドラクエを知らない、どうしたらいい?
 香ばしい匂いがする。店主に任せたい気持ちとゲレゲレへの思いが交差して汗をかく、手羽先にすればよかった。……とても、食べられない。
「あいよ」
皿も見ずやたらとかき込む、味なんかわからない。涙が止まらない、ごめんゲレゲレ、コリコリしてて唐辛子効いてピリッと辛くて美味しいよ、なんだろう、牙かなぁ、鶏の牙?ないだろ、じゃ、消化に使うっていう体内の石?流石に食べられないだろ。じゃ、何???
「泣くほど美味しかったかい?」
店主の笑顔、何も言うまい。
「おあいそ」
俺は食事を終え、会計を頼む。114円ぐらいかな……。あ、財布忘れた
「財布車に取りに行っていいですか?」
「いいよ」
取ってきた。あれ、十円玉どこだ、一円玉一円玉。
「何やってんの」
「すいません」
怒られた、やべぇ。
「8715円ね」
クラクラした。「えぇっ」って声が出た。俺は何を食べたんだ。いや何も見ていないし覚えていない。戸惑っていたら店にいた近所でよく挨拶するおばさんやおじさんが百円玉二つと十五円貸してくれてなんとかなった。
 とにかく今度の流行は決まった、ゲルマル。
 豚でさえ食べられない、「鶏の声」だということだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?