VFR クロスカントリー考 不時着あるいはFLWOPについて
先日、ニュージーランドで訓練している学生の方と話をしていて、VFRクロスカントリーの話になりました。
自分がクロスカントリーのフライトテストを受けたのは10年前のちょうど今頃。ニュージーランドは7月が最も天気が荒れるので、テストが2ヶ月以上も延びて、8月になってやっと実施できたもの。IFRのシミュレータトレーニングが始まってもまだテストを受けていない状態でした。
10年後も同じようなテストレポートを書いているとは思いませんでしたが、よく続いたもんです。
さて、上記のテストレポートにもありますが、ニュージーランドのクロスカントリー試験でのメインイベントといえば「不時着(FLWOP)」と「ダイバージョン」です。私が教官となってからも、学生が試験に落ちるのは大体この2つが原因でした。
これから、それぞれを詳しく説明していきたいと思います。
本稿を含めたマガジンの収録記事は、著者の私見であり、あくまで参考情報の提供が目的です。実際の訓練にあたっては、それぞれの国の法律を尊守し、担当インストラクターの指示を優先してください。
不時着(Forced Landing With Out Power)
たったひとつしかないエンジンが止まった時に、サバイバルできるかどうか。免許を取るPPLの段階でも非常に重要視される課目の一つです。
畑や牧草地など、区画された緑地のことを「パドック」と言いますが、ニュージーランドは酪農業が盛んなので、このようなパドックがたくさんあります。
こんなにパドックがたくさんあるんだから、さぞかし簡単だろうと思うかもしれませんが、意外と「使えるパドック」は少ないことが多いものです。
パドック選びの「6S」
良さそうに見えるパドックも、近づいてみると表面がうねっていたり、水分が多くて沼地のようになっていたり、牛が徘徊していたり、用水路が横断していたり、上空からは見えない柵が張り巡らされていていたり、アプローチサイドに電線があったり、ファイナルに入ったら西日で見えなくなった、などなど。適切なパドックを探すにも、注意深さが必要です。
Size, Shape, Surrounds, Surface, Slope, Sun
6つを満たす理想的なパドックは、ほとんどありません。
さらに、クロスカントリーで難しいのは、このようにパドックがたくさんある場所だけを飛ぶわけではないことです。
例えば、山。
山岳部を飛ぶ場合、当たり前ですが不時着に利用できるパドックのオプションは、平地と比べて著しく限られてしまいます。パイロットは、エンジンは壊れるものとして飛ばなければいけません。逆に言えば、そんなところをエンジンが1つしかない単発機で飛ぶのは、ギャンブルなのです。山を飛ぶなら、それ相応のプランが要ります。
いわゆる「マウンテンフライング」は、山岳部を地表から1000ftくらいで飛ぶことを想定していますが、運航目的(SARや空撮など)や天気によるものでない限り、そもそも「マウンテンフライング状態」にしないことが一番賢い。つまり、最も簡単なのは、山岳部を飛ぶときはできるだけ高く飛ぶことです。
しかし、与圧のない小型機が山より高く飛ぶこと自体、そう簡単なことではありません。そういうこともあって、ニュージーランドのシラバスにはPPLにもCPLにもマウンテンフライングだけの時間がそれぞれ2時間、要件として取られています。まぁ、やるのはほんの「触り」だけですが。
話を不時着に戻します。
平野部であれ、山岳部であれ、PPLの時とは違って自分の「お気に入りのパドック」がない場所でエンジンが壊れるのが、クロスカントリーにおける不時着(FLWOP)の難しさです。どうすればこのような状況に対応できるでしょうか。
常にパドックを探しながら飛ぶ
単発機に乗っている以上、常にFLWOPのリスクがあるわけです。双発機なら、1つが壊れてももう1つのエンジンを使って地上まで飛行機のエナジー(速度と高度)をコントロールすることができますが、単発機は、エンジンが壊れた段階で飛行機の使える総エネルギーが決まってしまいます。
高度があるうちに速度がなくなったら失速ですし、高度がゼロになった時に速度が大きければ墜落です。パイロットは、速度と高度、両方のエネルギーがゼロになったときに、飛行機がちょうどいいパドックに降りられるようにこの両方をコントロールするわけですが、エンジンを使えない以上、この作業のための時間は著しく限られています。
ということは、エンジンが止まってからパドックを探すのは、貴重な時間を浪費しているという点からいただけません。単発機のパイロットとして常に考えなければいけないことは、今エンジンが壊れたら、どこに逃げるか、どちらに機首をむけるか、これを常に考えておくことでしょう。
風にもよりますが、ざっくりのイメージとしては、翼で「触れている」ところが届く範囲として、その範囲内にオプションがあるうちは安全と考えるやり方。だいたいどの飛行機も、フライトマニュアルに滑空比が書いてあります。
例えば4000ft降りるのに6マイル進む飛行機だったら、海岸線と平行に6マイルのところを4000ftで飛んでみて、海岸線が翼のどこを切っているかで無風状態での目安が取れます。滑空比はほぼ高度によらず一定なので、パイロットの目の位置が変わらなければ、どの高度でも同じ目安がつかえます。そうやって研究しておいて、あとはその日の風によってちょい足し引きすればいい。
風の影響を実感するために、ウエスタリーが吹いている日に、東西の方向に向かってトレーニングエリアでパワーオフグライドをやってみてもいいかもしれません。その違いに驚くはずです。
前述したように、山岳部ではそのオプションが著しく狭められますから、自分のパドックが翼から離れていくに従って、自分の進行方向にまたオプションを「握り」始める。そうやって、少なくともどちらかの翼で、最低1つのパドックを「握って」いれば、パイロットとしてやるべきことをやっていることになります。
フライトテストでは、いつ、どこでエンジンが切られても、生き残ることができることを示す必要があります。逆に言えば、多少ETAや高度がずれようが、あまり気にしません。
いざという時にサバイバルするための準備できているか、これを重視するのがニュージーランド流です。
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さて、次回は、不時着をギャンブルにしないための、具体的なニュージーランド流テクニックを紹介します。
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Pilot's note NZ在住Ashの飛行士論
NZ在住のパイロットAshによる飛行士論です。パイロットの就職、海外への転職、訓練のこと、海外エアラインの運航の舞台裏などを、主に個人的な…
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