プロフェッショナルと職人の違い
プロフェッショナル(プロ)とは何か。
個人的には、プロの定義は、職人との違いと対比するとわかりやすいと考える。
プロは、報酬(外的動機)の範囲内で、要求された仕事を満たし、しくじった時のリカバリー方法(会社や組合や保険)確立している組織で働く専門職。つまり、もらった金の分の仕事はきっちりやるけど、それ以上の仕事はしない。自分の責任の範囲を超えた仕事もしない。
一方、職人は、自らの美学(内的動機)によって、ある前提条件のもとで仕事の質を極限まで高めようとする。基本的に、失敗はリカバリーできないと考えているから、補償も自分でやる。つまり、常にもらった金以上の仕事をしようとして、そのためなら自己犠牲も厭わない。というか、自己犠牲の伴わない仕事がない。なぜなら、命を削って仕事をすることが、自分が納得できる品質の必要条件だから。
さて、当然これはスペクトラムで、専門職の人は両方の成分の混合になる。100%のプロ、100%の職人という人はいない。しかしとりわけ日本人は、「プロ」ではなく「職人」要素が重くなりがちではないだろうか。
着陸にみる職人的気質の利害
個人的には、いい着陸の3要素として、センターライン、接地点、スムースさがあると考えているのだけれど、100点満点の着陸があったとすると、それぞれの要素に割り当てられた配点は、
センターライン・・・40点
接地点・・・40点
スムースさ・・・20点
という感じ。つまり、センターラインと接地点にちゃんとつければ80点の着陸で、スムースさは極端な話、機体を壊したりオーバーGしなければ0点でも着陸全体としては及第だということ。
とは言え、パイロットであれば皆、毎回できるだけスムースな着陸をしようと試みるはずだ。安全の範囲内、つまりセンターラインと接地点を外しさえしなければ、パイロットがその職人的気質を発揮して、穏やかに着陸できればそれに越したことはない。
しかし、長期休暇から帰ってきた一発目のナイトランディングなど、前提条件が大きく変わっているにも関わらず同じようにスムースなランディングを目指してしまったらどうだろう。スムースな着陸を求めるあまり、接地点が伸びてしまったらそれは一気にマイナス40点となるから、及第点を取るのは難しい。職人的気質がこだわりになり、全体を見失う。
前提条件が変わった時は、今まで正解だったことが不正解になることがあるわけだが、職人は前提条件の中でしか仕事をしない(いい仕事にはいい道具がいる)から、まさか前提条件が変わるなんてことを考えない。
プロならいいのか
では、プロ成分だけならいいかというと、そうでもない。特に、通常運航において言われた分以上の仕事をすることは、ストレートに顧客満足度の向上として帰ってくる。誰だって「おまけ」されれば嬉しいものだ。
「おまけ」は「負けてやる」ことだから、自己犠牲そのものだ。これが行き過ぎると、サービス残業や感情労働になってしまうが、どこまで「負けてやるか」を自分でコントロールできれば、それは瞬間的な顧客満足度の向上につながる。もちろん、経営者がこれをあてにしてはいけないけれど、現場の一員としていつも少しだけ「負けてやる」感覚で仕事をしていると、人に感謝されることが多い。
英語ではこういうのを「Go beyond」あるいは「Do some extra」というけれど、実は、こういう体験を持っていると、転職をするときに自分を売る時のネタに困らない。Behavioural Questionsでは、実際の体験を話さなければいけないからだ。
ここから導き出されるのはつまり、二つの要素を対立的に捉えるのではなく、相乗的に利用することができれば、それは日本人ならではの高品質かつ全体を見誤らない唯一無二の仕事ができるってことだろう。職人に寄りがちな気質を自覚した上で、それをコントロールすることが大事。
知らんけど。
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