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失敗から学ぶとはどういうことか

前回に引き続き、ラインチェックでのフェイル考察をお送りします。

人間の脳の仕組みを模した人口知能(AI)の学習の方法は「失敗から学ぶ」だそうです。

人工知能だって壁にぶつかりながら失敗をして、最終的にはどこにもぶつからずに運転できるようになるんですから、人間だって失敗をしながら上手くなっていくしかないわけです。原則がそうなっている以上、失敗を受容できない社会は、学習の機会を奪いながら結果を要求するという矛盾によって、必ずその中にいる人間を壊します。

日本社会は、そういう傾向が強い気がします。

失敗を許容する文化

大事なのは、人工知能に「ぶつかってもいい環境」で自律的な教育を促すように、人間にも「失敗できる環境」を用意し、できるまで結果を求めずに待つことでしょう。

かくいう私自身も、自費でトレーニングをしていた時は、航空会社は金をかけてまで落ちこぼれの面倒をみるようなことはしない、訓練を短期で終わらせられればそれだけえらい、追加訓練は恥だ、とさえ思っていました。

しかし、ロボットが学習の過程で何度も壁にぶつかったりひっくり返ったりしているときに、このロボットには才能がないとか言う人はいません。ロボットに向かって「何度言ったらわかるんだ!」と怒鳴り散らす人がいたら、笑われるだけでしょう。しかし、同じ上達の仕組みをもつにも関わらず、こと人間が相手になると、たちまち声を荒げたり、失敗そのものを糾弾したりする人が出てくるのは、滑稽です。

危機感を持つことは大切ですが、同時に偏った考え方になってしまってはいけません。多少時間をかけててでも、訓練中の失敗や落第を肯定的に捉え、必要なサポートを提供することは、結果的にいいパイロットを育てることになりますから、会社にとって長期でプラスになるはずです。

今回、私も失敗(フェイル)したわけですが「FAIL:First Attempt In Learning」という気持ちでやっています。幸いにも、私の会社、トレーニングチームはこのコンセプトをちゃんとわかっていて、私に「学習の機会」を与えてくれました。

訓練がうまくいかないことを、個人の責任だけに帰すのではなく、トレーニングチーム全体の問題として捉えてくれたおかげで、今回、後述するシミュレータトレーニングで私自身確実に成長した手応えを感じることができました。

私は日本で働いたことがないので判りませんが、同じことがもし日本で起きていたら、どうなっていたでしょうか。想像するしかありませんが、もっと精神的に追い詰められていたんじゃないかと邪推してしまいます。

誰か知っていたらコメント欄やツイッターで教えてください。

シミュレータで「着陸祭り」

さて、御託は置いといて、シミュレータによる着陸訓練の話です。風や空港を次々と変えながら何度も何度も繰り返す「着陸祭り」をやってきました。

インストラクターは経験のあるトレーニングマネジャーの一人で、左席に座りながら時々後ろを振り返って操作し、時々デモを挟む素晴らしい訓練をしてくれました。

何が素晴らしいかというと、まずお手本としての彼自身がもつ確固とした「技量の高さ」が一つ。もう一つは、経験の少ない私が学習中であることを理解し、節操に結果を求めない「忍耐強さ」が一つ。

前者により、自分の今の状態と、あるべき姿の差を測定して、私自身が改善策を考えられるようになります。後者により、私の脳の神経回路に正しい動きがひとつひとつインストールされるため、結果的に早く、効率よく正しい動きが習得できます。

技量の向上に必要なのは、教官からの叱責でも過剰な褒め言葉でもなく、正確なお手本と失敗を織り込んだ反復練習です。仮に一回でできなければ、できるまで反復すればいいだけで、教官は、そこさえ分かっていれば実はなにも教えなくていいとさえ言えます。

一回でできないといけない、とか、コストをかけてまで、とかそういう思考は、上でみたように自然の法則に逆らっているという意味で有害です。四の五の四の五の言わずに、うまい人のやり方を見て、ひたすら反復反復。その方が結果的に早く、安く、うまくなれます。そういう意味で、ボタン一つで簡単に同じ状況を再現できるシミュレータは、技量を研ぎ澄ますのにうってつけの道具なのです。

■改善したピッチコントロール

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