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小さな島の小川にて

小さな島がありました。
小川が流れておりました。
やさしい風がフーっと吹いて、明るい午後が始まりました。

小さなお姉ちゃんを追いかけて、小さなわたしは走ります。
「川で遊ぼう」
小石をなでて流れる水が、ところどころでチョロチョロと、すきとおった音をたてました。

流れに足を突っこんで、バシャ バシャ バシャ。
足踏みするのはお姉ちゃん。
水しぶきをたっぷり上げて、にごった水といっしょになって、こちらへ向かって走ります。
追い立てられて流れてくるのは、泥に混ざったドジョウたち。
「ほら、つかまえた!」
ひげが生えたドジョウの顔は、まるで、ゆかいなおじいさん。
入れ物の中で大あわて。
仲良くみんなで大あわて。
「おじいさーん、こんにちは」

小川には、タニシもいっぱい。
親子で川底にくっついて、じーっとしているのんびり屋さん。
黒く光ったタニシの殻。
そっとつまんで、入れ物の壁にぺたっ。
タニシがドジョウに仲間入り。

もぞもぞと動いては、逃げるタニシもいるんです。
入れ物からはいあがり、流れのある川を目指します。
たどり着けるかわからないのに、タニシはけっこう、勇敢です。

「川にはね、こわい生き物もいるんだよ」
お姉ちゃんが声を低くして言いました。
「吸いついて、血を吸うんだよ」
お姉ちゃんの目が大きくなって、わたしの目も大きくなって、小川をじーっと見つめます。
でも、一度だって、そんなものに吸い付かれたことはありません。
「どこかにいるかもしれないけれど、ここにはいないよ」
生き物をよく知るお姉ちゃんが、笑ってわたしに言いました。

小さな島がありました。
歩くそばには、どこにでも、小川が流れておりました。
水の上を照らす光が、やさしい夕日になったとたん、涼しい風がフーっと吹きます。
明るい午後が「また明日」と、通り抜けていきました。


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