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掌編、短編小説広場

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此処に集いし「物語」はジャンルの無い「掌編小説」と「短編小説」。広場の主は「いち」時々「黄色いくまと白いくま」。チケットは不要。全席自由席です。あなたに寄り添う物語をお届けしたい…
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2021年3月の記事一覧

掌編 手紙「子どもたちへ」

 前略 近所の草木が一斉に芽吹いて、わが家の周りもいよいよ春めいて来ました。今年の桜の開花は早いようですが、あなた達の通う学校の桜はどうですか。  今日は、容易に会いに行く事が叶わなくなったあなた達の門出を、それでもお祝いしたくて、こうして手紙を書く事にしました。年に何度も会いに行ったり、またこちらへも遊びに来てくれていた日々の事を思うと、その日常はすっかり様変わりして、懐かしい気持ちにさえなります。けれど、去年は一度だけ、緊急事態宣言の解除されている間に、会うことが出来ま

短編「家の敷地でたぬきが死んでいた」

 すっかり春の気配が色を濃くし、満開の桜を待ち侘びる季節になりましたが、この穏やかな春を無事迎えられる命は、冬を越えようとする命の数とは比例しないのですね。  それは三寒四温の始まって間もない頃、まだ寒さの強い二月の下旬のことでした。数日訪れていた暖かい日和はまた北風に押し戻されて、舞い戻って来た冬の日でした。私は玄関を出て、いつものように外の植え物の様子を順番に眺めていました。風は冷たく、けれども陽射しのある日でした。ぐみの木も山椒の木も紫陽花も、まだうんともすんとも言いま

掌編「ねえさん」

 進は独身だが、三つ上の兄には嫁と、夫婦にとって宝物の様な一人娘が居る。兄等の暮らす家が進の暮らすマンションと同じ市内にあって、進は二人が付き合い始めた当時から嫂と仲が良い。結婚後に生まれた姪ともお菓子や玩具を沢山貢いで仲良くなった。兄との関係も、休日が合えば飲みに行くかと気軽に足を揃える位に近いので、矢張り世間一般と比べて同程度か、或いはそれ以上に良いといえた。  進は毎年冬の寒さが和らいでくると、ああ、そろそろ姉さんの誕生日かと思い出す。別段手帳にもスマホにもメモはして

掌編「土にかえる」

 私は仏壇の前の座布団を横へずらして、畳の上へ正座した。手を合わせ、心の中で懺悔する。 「お母さん、誠に済みませんでした。あなたの地道に育てて来た植え物、殆ど駄目にしてしまいました」  緑溢れる森の様であったわが家の庭は、今までと同じように日を浴びながら、今までと同じように水を浴び、変わらぬ土の元で育っている筈であったのに、少しずつ褪せて、生気を失ったかのように萎びて、それからじわりじわりと枯れていってしまった。以前と変わった事と云えば、世話人が母から自分になった事だけであ