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箸休め

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連載小説の息抜きに、気ままに文を書き下ろしています。文体もテーマも自由な随筆、エッセイの集まりです。あなた好みが見つかれば嬉しく思います。
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#春

「たしかに春だった」

 靴には防水スプレーをその都度吹き付ける。元々撥水性を備えたトレッキングシューズだけど、服装はじめ、装備の防水性は重要だと思う。  どこまでも山を追いかけた。いつまでも天気を気に掛けた。そうやって日一日が、今年の一日、一日が、過ぎて行く。    キラキラ光る眼は新入生のものだった。初めて歩いた川沿いの桜並木からは香しい春が流れていた。鯉もサギも鴨も、のんびりと日向を満喫していた。桜に引き寄せられて人、思い思いに並木を見上げていた。コアラのマーチいちご味をつまみ食いしながら

「かこつけて桜餅」

 おつかいの序に、ふと思い立ち久し振りで和菓子屋へ寄った。街中で綻ぶ花の蕾や気の早い桜を見かけるうち、「春」を思い出したのだ。 「春」といえば。その問いにはきっと、百人寄れば百通りの答えが返ってくるだろう。その時々の気分にも左右されるだろう。私は常から気候を意識してしまう人間だから、この頃は三寒四温の只中に居るな、と、まるで台風の目の中にでもいるかのような気分で日々を暮らしている。そうかと言って何ら不自由はなく、寧ろ風を楽しんでいる。雲の変化を楽しんでいる。  人対人に煩

「怠惰にミモザに花まるけ」

 先日登った山の麓に咲いていた、これは桜で合ってるだろうか。暖冬の二字に振り回された冬が終わろうとしている。日々の暮らしに菜の花が映り込む季節になった。  執筆の速度と文量を大幅に減らすと、早起きの必要を感じなくなったのか、二度寝の常習犯になった。夜明けは日に日に早くなるのに、御用がないとビシッと朝起きようとしない。温もりに満ちた冬仕様のお布団が、まだいいよ、ゆっくりすればいいよと、誘惑してくる。実際何だか凄く眠いのだ。  何かが大きく変わろうとする前、物凄く、ただひたす

「すいー、すとんっ」

大人になって登ったら、滑り方忘れてました。すべり台。 春うらら~ なんて木々を見上げる間に四月が終わりました。日差しは随分穏やかに、花咲き誇る街道はみるみる内に新緑に染まりつつあります。風が嬉しい。そんなお昼。月が恋しい。そんな夜―― どなた様もこんにちは 月に一度の振り返りエッセイのお時間でございます。お付き合い頂ければ幸いです。 #ほろ酔い文学 と #私の作品紹介 で頂きました。 勤め先でカクテルを提案する機会がありまして。ふと思い浮かんだ空想を掌編に落とし込んでみま

「日和写真館」

春の陽気に誘われて、足を運んだ四月のよりみち。気ままに向けたカメラの向こうを、どうぞ。 けれどもまあ、花より団子。                           おわり

「竹の子とキャラメル」

 スーパーで竹の子を見つけた。でんと大きな竹の子が、今年はよく並ぶ。竹の子は好物だけれど、灰汁抜きをして調理する手間を割けない。作ればさぞ美味しいだろうと、生の竹の子を横目に立ち去る日々を暫し繰り返している。竹の子は大変美味しい、春を戴くに持って来いの山の恵みなのである。    むかしむかし、私が今よりもっと小さな小学生だった頃の話だ。  当時は両親が小さなレストランを経営していた。店の常連客に、きのこの先生と呼ばれる先生が居た。そのきのこの先生と私の家族とで、ある年の春

「とんとん拍子、その調子」

 すっかり春めいた日差しの中、あちらこちらで新芽が吹いて、世界は一息に色彩豊かになりました。  皆さまこんにちは 今年も桜が綺麗です。  待ち設けた楽しみがあると、月日の過ぎるのが早いと感じます。さて、毎月恒例のnoteからのお知らせを振り返るお時間です。投稿数は少なく、長編小説連載中でもありまして、お知らせは頂けないかもしれないと思っておりましたが、ちょっとだけお付き合い頂けますと幸いです。 #振り返りnote で頂きました。韻を踏んで遊んでいます。言葉はリズムです。な

「ぐるりの春」

ラッパ水仙が見上げる空には、刷毛で伸ばしたようなすじ雲が広がっています。 三月の半ば、穏やかな晴れの日の一枚です。 毎年お世話をしていないのに、季節が来ればぽんと蕾をつけて、寒さの残る風に耐え、こうして陽気に花を咲かせては、我が家に春のはじまりを告げてくれます。今年はどうしたことでしょう、6つ子です。あんな土壌で、よくぞ沢山咲いたものだなあと思いましたけれど、そういえば去年、里芋を育てた土を入れ替えの為に敷地内のあちこちへほいほいかけて回った事を思い出しました。その効果な

「春待つ時、万物は等しく寒さに身を竦める」

身の回りに於ける人とのかかわりの中で、色々と思う事があった。長らく長編小説の執筆に思考のほぼ全てを傾けていたから、頭の切り替えに、そして頭の体操になった。時々こうして人間らしい苦悩や煩悶を目の当たりすることで、自分も人間社会に生きる一部なんだなと思ったりする。 それは自分が決して悩まない人間という訳じゃないけども、元より与えられた命を生きているこの身であるから、心底悩んでいるようでいて、それを俯瞰する自分も自覚しているのである。 例えるならば、「人生」という船のオールを握

随筆「卯月の晩に桜光る」

 早い地域では散り果てと新聞にあった。毎年ながらぱっと咲き誇ったと思うと、瞬く内に散ってしまう。なぜあそこまで儚いだろうと中空を仰ぐ。世に色は多いけれども、花の色は誰にも真似できなかろう。よしうまい具合に再現したとして、それはあくまで赤色、黄色、なのである。花の色は、命の色であるから。あなたの色が誰にも真似できない様に。  等と眩しい朝日の内に御託を並べて草花の機嫌を取り、水を遣って、山椒を襲った不届きなアブラムシにオルトランをお見舞いしている内、咲くのか咲かないのか分から

「月が笑う朝、僕のそばには花があった。もぐもぐと君と春」

おはよう あのね 大発見 月が夜明けに大地へ降りたら 隣でお花が潤んでた 心がぽっとなる だって君が笑ってくれたから 僕はいつの間にか 春がそばへ来てくれた事を知ったんだ ほら、春だよ ドーナツのお土産ってわくわくなんだって。 メロンパン、満月に食べた。 積まれると嬉しいホットケーキ。 和三盆のぷりん。 クッキー&クッキー お土産には優しさがぎゅっと詰まってる トマトソースでオムレツ。 滋味深い 春の麗しい色香  「先生とキャラメル」 「オーヘンリーとア

随筆「革靴の足運ばせて、日々」

 あれよと過ぎゆく日々だけれども、今朝も目を覚まして、抜け出したくない布団の温もりから仕方なくでも起き出して、部屋の寒さが身を痛めようとも、蛇口の水が凍っていようとも、足袋型の靴下を履き、木刀えいやと振り回して、温めたお汁に焼き餅を乗せて、黙々と、生きている。耳たぶの霜焼けがなんだ。指先悴む洗濯物がなんだ。元来の負けん気は何処だと行李の中から探し出して押し出して、今日も今日とて荒ぶる世間に我が身を窶すのである。  ほうらみろ、あすこに太陽が顔出したぞ。背筋が伸びるから不思議

「本屋へ解き放たれたい」

 ここnoteでの売り上げを持って、大きな本屋へ出掛けたい。鞄には他に、携帯用のアルコール消毒と、布製の手袋を持って。電車の中ではマスクを着ける。口の周りの荒れに悩まされているから、内側には綿ガーゼを当てておこう。  久しぶりの本屋へ辿り着いたら、先ずは忘れずにアルコール消毒と、それから布製手袋をはめようかな。そうしたら、 「さあ、好きなように見ておいで」と随分本屋がお預けになっていた自分を本の海へと解き放つのだ。それで、新しい出会いを求めて、あっちの棚、こっちの棚と、縦横無