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箸休め

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連載小説の息抜きに、気ままに文を書き下ろしています。文体もテーマも自由な随筆、エッセイの集まりです。あなた好みが見つかれば嬉しく思います。
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#小説

「ごあいさつ」

こんにちは、いちです。 長編小説「KIGEN」の連載が終了致しました。お付き合い下さった皆様に、心より御礼申し上げます。お読み下さっていると実感できるたび、その一つ一つがどれ程励みになったか知れません。連載を続ける上でも大きな支えでした。また、お時間の許すとき、現在進行形でお読み頂いている皆様の事も、私にとり大きな励みでございます。本当にありがたく存じます。 しばらく執筆と、そして自身の生き方に向き合う時間に主軸を移します。その間に、noteとの付き合い方も考えてみようと

「すいー、すとんっ」

大人になって登ったら、滑り方忘れてました。すべり台。 春うらら~ なんて木々を見上げる間に四月が終わりました。日差しは随分穏やかに、花咲き誇る街道はみるみる内に新緑に染まりつつあります。風が嬉しい。そんなお昼。月が恋しい。そんな夜―― どなた様もこんにちは 月に一度の振り返りエッセイのお時間でございます。お付き合い頂ければ幸いです。 #ほろ酔い文学 と #私の作品紹介 で頂きました。 勤め先でカクテルを提案する機会がありまして。ふと思い浮かんだ空想を掌編に落とし込んでみま

「雲は群れをなして」

先日手紙に「広辞苑」と書こうとして「辞」の「辛」と「舌」を逆にして書いた時寝不足を実感しました。とはいえ便箋を一枚ロスにしてしまった事の方が悲しい事実でした。慰めに紅茶を淹れて飲みました。 皆様こんにちは 深まる秋、いかがお過ごしでしょうか。わたくし色付いた野山を陽気に歩くのも好きですけれどモフモフ布団にくるまれているのも好きです。 ええ、先月も沢山お知らせを頂きましたので、遅ればせながら10月の振り返りを行います。あなたにいつだって何度だって伝えたい。 「いつも本当にあり

「六畳一間、時々お台所、そして外」

 どなた様もこんにちは、いちと申します。天然自然と生きています。令和四年八月にnote3年生になりました。 ・小説を書きます ・手紙を書きます ・和菓子が好きです ・月が見えると喜びます  他の事もできます。  いちのnoteでは、長編小説、掌短編、エッセイ、料理の話などをマガジンで分けて掲載しております。あなたに届けたい、その一心で筆を執っては六畳一間から、お台所から、そうして時には自然の中からお届けしています。  noteを始めなければ味わえなかったであろう素敵な経験

「いまが長月」

 初物の極早生みかんが市場へ出回る季節になりました。青々として艶やかな一つ一つ、酸味の効いた果実を想像して口の中がきゅっとなります。「今季初入荷」に居合わせた幸運に乗じて早速買って帰りました。  粒ぞろいの果実を頬張りながら、九月を振り返って参ります。 #私の作品紹介 と、先週もっともスキされた記事の一つに選ばれました。物語を書いていたくてnoteに居る自分。その一本があなたに届く度、ああ、書いていて良かった、そう思います。お年頃で活発な三姉妹の物語です。 先週もっとも

「その日焼けも勲章ね」

 じめじめの続いたお盆明け、雨あがらないかな月はまだかなと毎夜燻る空を見上げていたものですが、日曜日、ランニングの為外へ出てみれば秋の雲が敷き詰まっています。昼間の内から涼しい風が吹き、気付けば天高く、日差しも気持ちよく注ぎます。どうやら秋の入り口が見えて来たでしょうか。  そんなお休みの夜、窓を開けたままでは半袖の腕が寒いと感じる程気温が下がりました。試しに外へ出てみれば、星が散らばっています。コンビニの街灯がなければもっと奇麗に見えるでしょう。それはさておき、これはチャ

「ひぐらし、雀の集会所、白桃の月」

 雨上がりの夕方、休日の国道は常よりも静かで、山の声がいつもよりもよく聞こえる。終日隠れていた長い日は、暮れる前に少しだけわが家の物干し台をオレンジ色に照らした。そうして今は蜩が鳴いている。  もう夏だ。先日から職場へ向かう道中にも蝉の声を聞くようになった。これから一層賑やかになるだろう。夏が盛んと降りしきるのだ。近所の線路を、たった今電車が走り去った。夜も更ければ踏切の音さえ鮮明に届く。週末の夜空には久し振りで月が昇っていた。白桃色で麗しく、またしても暫し見惚れた。空き家

「長い旅になる」

 物語の旅は長い。歩いても歩いても道は続く。だが立ち止まってもいいし、途中で引き返しても良い。ひたすら先へ進むのだって無論のこと構わない。物語の旅は、要するに自由なんである。  本を広げて寛ごうと思うと、他の作業は片付いただろうかと周囲を見渡し、気懸かりがなくなってからでないと、さてさてと向き合う気になれない自分である。だがそうして漸く広げたページの狭間へ思考がすとんと落ちるのは早い。文字を追う程に加速して、その他一切を忘れている。そしてそんな物語に出会えること自体が喜びで

「雪よ、鬼よ、君の苺よ」

皆様こんにちは 只今勝手を遣り過ぎて散髪に二度失敗した為とうとう一度人に切って貰う事に決めて自分で散髪するのを我慢しているので頭はボサノヴァのいちです。  陽が少しずつ長くなって参りました。職場のエントランスから差し込む光が、遂先日まで四時にはもう暗くなっていたのに、いつの間にかまだ明るい日差しが長くフロアの木板を照らし、光の筋を作ります。其処へ立ってグラスの仕上げ拭きをするのが営業前の日課です。 さて、二月の振り返りのお時間がやって参りましたので早速お知らせを頂いた記事

随筆「革靴の足運ばせて、日々」

 あれよと過ぎゆく日々だけれども、今朝も目を覚まして、抜け出したくない布団の温もりから仕方なくでも起き出して、部屋の寒さが身を痛めようとも、蛇口の水が凍っていようとも、足袋型の靴下を履き、木刀えいやと振り回して、温めたお汁に焼き餅を乗せて、黙々と、生きている。耳たぶの霜焼けがなんだ。指先悴む洗濯物がなんだ。元来の負けん気は何処だと行李の中から探し出して押し出して、今日も今日とて荒ぶる世間に我が身を窶すのである。  ほうらみろ、あすこに太陽が顔出したぞ。背筋が伸びるから不思議

「文字の休日シリーズ・夢」(不定期連載)

生涯のほとんどの時間を追い掛けられて過ごすらしかった。そして中には捉まえてものにするのも居た。そう云う日は嬉しかった。いつかは自分も追い掛ける側になってみたいと思いながら、やっぱり追いかけられている。そうして殆どは諦めてゆくらしかった。「夢」はいつでもここに居るのにと思うのだった。 ※人に休息が必要なように、言葉にも文字にも休息が必要だと思うのです。一文字ずつ、休ませてあげよう。その間にいちも休もうと云う魂胆の不定期連載スタートです。尚、Twitterにも同時にあげますので

「文字の休日シリーズ・愛」(不定期連載)

「愛」は苦悩していた。呼ばれて出て行くと殆どの場合が試されているからであった。そんな環境に身を置き続ける事がそろそろ辛いと、「愛」は逃げ出した。生まれて初めての逃避行は永遠に続くかと思われた。だが最後の最後で矜持では無く理性が「愛」を追い掛けた。「愛」は遂に真実を知った。 ※人に休息が必要なように、言葉にも文字にも休息が必要だと思うのです。一文字ずつ、休ませてあげよう。その間にいちも休もうと云う魂胆の不定期連載スタートです。尚、Twitterにも同時にあげますので140文字

「日本の物作りの美しさよ 使って心地好さを実感する風呂敷」

これ、何だかわかりますか?ヒントはマウス。そうです、自分の大事な相棒、ノートパソコンなんです。 ずっと、購入した時にパソコンが入っていた袋状の不織布のまま、リュックに入れて持ち運んでいたのですが、表面が縒れてどんどん悲惨な状態になってきまして。これは野暮だと自分に駄目出ししました。 それで不図、市場にはノートパソコンやタブレット端末を鞄に入れて持ち運ぶ為の、内袋みたいなものを売っているのではないかしらと、漸く思い付いたのです。 自分が欲しいのは、日本製の商品でした。丁寧

「太宰治を尊敬した日」

 十代の頃、初めて太宰治に出会いました。「走れメロス」や「人間失格」を外からの学びで教わった私は、「暗い!こんな暗い所へ引きずり込まないでくれよ」と粋がって、走って逃げました。  そのまま二十代になりました。逃げたはずであるのに、依然として太宰作品は目の前に在りました。今度は私は、凝とそちらを見たまま、一歩ずつ、後ろへにじり下がりました。そうやって下がりながら対峙していたら、或る日こつんと後ろへ当たるものがあって、振り返った私の手に、巡り巡って行き当たった太宰治が在ったので