マガジンのカバー画像

箸休め

137
連載小説の息抜きに、気ままに文を書き下ろしています。文体もテーマも自由な随筆、エッセイの集まりです。あなた好みが見つかれば嬉しく思います。
運営しているクリエイター

#創作

「とんとん拍子、その調子」

 すっかり春めいた日差しの中、あちらこちらで新芽が吹いて、世界は一息に色彩豊かになりました。  皆さまこんにちは 今年も桜が綺麗です。  待ち設けた楽しみがあると、月日の過ぎるのが早いと感じます。さて、毎月恒例のnoteからのお知らせを振り返るお時間です。投稿数は少なく、長編小説連載中でもありまして、お知らせは頂けないかもしれないと思っておりましたが、ちょっとだけお付き合い頂けますと幸いです。 #振り返りnote で頂きました。韻を踏んで遊んでいます。言葉はリズムです。な

「今日とて霜」

 池の端にロープで小舟が繋がれて、それが波紋に押されるようにしては行きつ戻りつ浅瀬を揺蕩っている。池の淵の草は冬模様で枯れ草が目立つ。ただ侘しさはない。植物が順当に一度枯れ、また来る芽吹きの季節を待って静かに休んでいるだけに見える。  自然界の色にはおためごかしがないから好い。無理に出来上がった発色もなく、水に打たれれば水に打たれたように、日差しに晒されれば日差しに晒されたように、抜けたり息を吹き返したりとありのままに世界となじんでいるのがわが心に好ましい。霜柱を踏む。

「この星の点と点と卯」

うきよの香り立つ朝に さだめし命ほのかに蕾綻ばせ ぎりと人情心ゆくまで握りしめ どうぞどうぞと慎ましくも躊躇わん しらず咲く此方の花かな                          令和五年・いち  謹んで 新年のお慶びを申し上げます  令和五年卯の年が穏やかに幕を開けました。 去る2022年11月半ば、世界の総人口は80億人に達したそうです。国連の見立てによりますと、2080年代に約104億人でピークを迎え、その後は横ばいになるのだとかいう話です。80億だろうと1

「silent night, holy night&heart」

こんにちは 黄色いくまと白いくまです。12月、僕らはこうしていちさんの部屋の片隅で、少しはしゃいだ気分で聖夜を待っていました。世界でもきっと、あなたからあなたに届けたい気持ちや贈り物が、優しさと、そして祈りに包まれて、運び続けられているんだなあって思いながら、可愛いサンタさんの袋の中で待っていました。 「あなたを想う」 その形はみんなそれぞれ違って、ケーキだったり花束だったり言葉だったりするのかな。けれどどれも全部、温もりに満ちていると思うんです。 僕らは願います 愛と

「あらまほしきことなり」

 誕生月は長編執筆で自分を追い込みながら始まった。十月末に一旦書き上げる予定であったものがずれ込んで、然し山形までに一度書き上げねば呑気に旅なぞ行かせんぞと脅されるものだから、誰にって、自分にだけど、そう云う訳だから必死で書き上げた。だから旅前の一週間くらいは非常に浮かれ気分で暮らした。今がチャンスと短編や掌編を書いて楽しく暮らした。荷造りで浮かれ、切符で浮かれ、想像巡らしては浮足立って暮らした。過日お話した通り晩秋の山寺を堪能して、他にも語り切れていない山形を存分に吸い込ん

「雲は群れをなして」

先日手紙に「広辞苑」と書こうとして「辞」の「辛」と「舌」を逆にして書いた時寝不足を実感しました。とはいえ便箋を一枚ロスにしてしまった事の方が悲しい事実でした。慰めに紅茶を淹れて飲みました。 皆様こんにちは 深まる秋、いかがお過ごしでしょうか。わたくし色付いた野山を陽気に歩くのも好きですけれどモフモフ布団にくるまれているのも好きです。 ええ、先月も沢山お知らせを頂きましたので、遅ればせながら10月の振り返りを行います。あなたにいつだって何度だって伝えたい。 「いつも本当にあり

「秋が降る」

秋の入り口が見えたと天高き空を見上げたのもつかの間、暑さが息を吹き返し、これでもかこれでもかと言わんばかりに熱を押し付けて来る。だけど季節は戯れに進んでゆく。押し問答していても、知らず世間を導いてゆく。 もう一度顔を上げる。 実りの秋が、わたしの手のひらへすとんと落とされた。 秋の銘菓、早々に味わう機会を得るとは幸せ者だなあと思う。頂き物の栗きんとん、うましうまし。 山梨県産の巨峰とシャインマスカット。八月のお盆の後、ちょっぴりお手頃価格になる。今がチャンスとばかり買い物

「空の大河は人知れず輝く」

今年も天の川は夢の中、それならせめてチップスターでも頬張ろうかとカルビー贔屓に似合わぬ戯言ぬかしたとかぬかさないとか、チップスターも昔から食べますいちです。こんにちは 有難い事に七月もちらほらnoteからお祝いメッセージを頂きましたのでまとめて紹介させて頂きます。お付き合い頂ければ幸いです。 ひと月の振り返り記事を珍しく早目に出したら、その直後にお知らせを頂きました。嬉しかったので七月分で紹介します。奥入瀬渓流の旅の前後を綴った話が、「国内旅行記事まとめ」 というマガジンに

「夏休みをカウントする子どもの声を聞きながら」

 今日は7月17日。この文章をnoteで公開する頃には、全国各地で夏休み入りした子どもたちが夏を満喫せんと走り回っているだろう。そうであれば嬉しい。そうであれと毎年心から願っている、子ども第一主義のいちである。  開け放しの窓から、通りを行き交う子どもたちの声が聞こえてくると、世間の息苦しさにも負けずに元気よく生きてるな!と途端に微笑ましくも頼もしくも思う。頑張れ、今ここが、君たちの時代だ!等と何様でもないけれど応援している。  応援、声援、励ましの言葉。感謝のコメント、

「ひぐらし、雀の集会所、白桃の月」

 雨上がりの夕方、休日の国道は常よりも静かで、山の声がいつもよりもよく聞こえる。終日隠れていた長い日は、暮れる前に少しだけわが家の物干し台をオレンジ色に照らした。そうして今は蜩が鳴いている。  もう夏だ。先日から職場へ向かう道中にも蝉の声を聞くようになった。これから一層賑やかになるだろう。夏が盛んと降りしきるのだ。近所の線路を、たった今電車が走り去った。夜も更ければ踏切の音さえ鮮明に届く。週末の夜空には久し振りで月が昇っていた。白桃色で麗しく、またしても暫し見惚れた。空き家

「地球の呼吸、回るパラソル」

『 揺れて紫陽花 月と太陽 雲隠れ   空惚ける雨童 天邪鬼   今日も前線 綱渡り   気まぐれに降らない 私が傘を持って出たから                       六月の溜息・いち  』  皆さまこんにちは お足元の悪い中、お越し頂き誠にありがとうございます。六月の振り返りのお時間がやって参りました。それではどうぞこちらへ。あ、そこ、水溜りにお気をつけ下さいませ。  といかにも梅雨らしく始めたかった六月ですが、梅雨明け出された地域も多く、暑い日差しを躱しな

「長い旅になる」

 物語の旅は長い。歩いても歩いても道は続く。だが立ち止まってもいいし、途中で引き返しても良い。ひたすら先へ進むのだって無論のこと構わない。物語の旅は、要するに自由なんである。  本を広げて寛ごうと思うと、他の作業は片付いただろうかと周囲を見渡し、気懸かりがなくなってからでないと、さてさてと向き合う気になれない自分である。だがそうして漸く広げたページの狭間へ思考がすとんと落ちるのは早い。文字を追う程に加速して、その他一切を忘れている。そしてそんな物語に出会えること自体が喜びで

「圧倒的つめつめ五月」

 皆様こんにちは 梅雨入り前のいちです。列島に前線が掛かる日もー・・・等と書いて過ごすうち、掲載前に続々梅雨入り始まりました。然しじめじめしている暇はありませんっ、仮令足元泥濘んでいようとも、前から雨風ぴしゃり顔叩こうとも、紫陽花の如く凛と背筋を伸ばして、厚い雲も突き抜けるように真っ直ぐに思い届けます。そう、雨だって恵みの一つ、喜んで受け取る事に致しますとも。と云う訳で雨上がりのわが家の紫陽花をお届けしました。奥ゆかしいじゃあありませんか。  さて、自分にとり執筆中の長

「五月晴れに身近な幸運を拾う」

 庭のぐみが真っ赤に熟した。今年も鈴なりで、鳥にも遠慮なく食べて欲しいが、明日は雨予報が出ているから今朝少し収穫してみた。先ず一粒、その場で軽く表面を払って口の中へ。薄皮が忽ち破けて甘酸っぱい果肉が舌の上へ広がる。皮に残る自然物の渋さと、木で熟したぎゅっと濃い甘味。みるみる力が湧いて来る様だった。口に残った細長い種をぽっと出した。  薫風庭先を撫でる。愈々緑溢れる日々が始まりを告げたのだ。青い空を横切る様に、蜘蛛の巣が宙を泳いでいた。  去る五月、長編小説推敲の傍ら、こんな