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箸休め

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連載小説の息抜きに、気ままに文を書き下ろしています。文体もテーマも自由な随筆、エッセイの集まりです。あなた好みが見つかれば嬉しく思います。
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2021年8月の記事一覧

「別に君を植えてないのに」

今年は連作不向きな君の為に、涙を呑んで、敢えて、植えなかったんだ。ただ、最後の里芋食べようとした時、これは無理だね、食べられないねってのを三つくらい、いつも里芋を植えてる元ティンパニの器へ放ったんだよね。ごみ袋には、捨てられなかったからさ。勿体ない気がしてね。 そうしたらね、遅ればせながらも、にょきにょき、日に日に、すくすく、伸びて来るやないですか。 「え?あれ、うん、育つね。すくすく、育っとりますね。君、あれでしょ、里芋でしょ」 こうしてわたしの頭の中では日々香水の歌

「それじゃみんな自分のクーラーボックスを椅子代わりにしてね。キャンプの話を始めるよ。」

 夏の長い一日の終わり、海岸沿いの砂浜は、まだ少し熱を持っている。寄せては返す波の向こう、漸く日が沈み始めた。松林からはヒグラシの声。辺りのテントからも、ちらほら煙が上がる頃合いだ。ぱち、ぱちと燻る炭の音。バーベキューの香ばしい香り。火を囲む人々の談笑。不図気が付けば夜の海。自然の風に囲まれると、ここはもう、社会じゃない。様々な人生の交錯する、着飾らない一夜の始まりである。  さあ、わが家のテントにも火が熾った。折角の御縁だ、一つ懐かしのキャンプの話をしようか。  私が物