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衛星データ利活用事例File.05:衛星データによる環境保全

衛星データ解析実験室!sorano me×豊橋市

豊橋市とのコラボレーション企画!豊橋市で集めたアイデアの中で、サービスとして可能性のあるアイデアを実験的に検証していきます。2022年7月スタート!
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本件に取り組む理由

衛星データの特徴の一つとして、過去人工衛星が撮影してきた膨大な時系列データを振り返り、今と比較することができるという点があります。自然環境が維持されているか、皆さんならどのように調べるでしょうか?

愛知県豊橋市には「葦毛湿原(いもうしつげん)」という2021年に国指定の天然記念物に指定された地域があります。葦毛湿原は愛知県東部の弓張山地表60-70m山麗に広がる湿原で、国指定の天然記念物に指定される前は県指定の天然記念物に指定されていました。また、約32,000m2の国内最大級の広さを誇り学術的にも貴重な植物種が数多く生育しているため、葦毛湿原は特に環境保全を強化すべき地域です。
参考HP:

この葦毛湿原についてEO BrowserのSentinel-2を利用し、どんなことがわかるのかを調べてみたいと思います。

今回は下記の手順で確認してみたいと思います。

  1. EO BrowserのSentinel-2を起動して葦毛湿原の範囲選択をしてポリゴン作成

  2. 植生指標(NDVI:Normalized Difference Vegetation Index)を使って値を確認

  3. タイムラプス機能を使ってNDVI画像の比較

  4. 葦毛湿原1年間の変化の可視化

1. EO BrowserのSentinel-2を起動して葦毛湿原の範囲選択をしてポリゴン作成

初めにEO Browserを開いて葦毛湿原近くを表示させます。
だいたい赤丸で囲ったあたりです…

credit: EO Browser /©︎Map Tiler ©︎OpenStreetMap contributors

わかりにくいので葦毛湿原を上方から撮影している解像度の高い画像で確認してみます。

credit: 国土地理院撮影の空中写真(2020年撮影)

湿原の形が少し複雑ですが、ざっと縦横を調べると縦約180m、横約220mです。こちらを参考にして葦毛湿原エリアのポリゴンをEO Browserで作成します。

credit: EO Browser /©︎Map Tiler ©︎OpenStreetMap contributors

参考までですが右上の面積を見ると0.03km2→30,000m2(葦毛湿原の面積は約32,000m2)なのでいい感じで面積が合いました。

2. 植生指標(NDVI:Normalized Difference Vegetation Index)を使って値を確認

NDVI値の強度をグラフ化したものが次の画像のような解析値として出てきました。
※解析するには、先のポリゴンを作成した画像赤丸の右側にあるグラフアイコンを押すことで実行できます。

credit: Modified Copernicus Sentinel data 2018-2022/Sentinel Hub

図データ右上に太陽と雲の表示があります。
これは雲がどの程度画像に被っているかを示す被雲率になります。0%にすると被雲率0%の時の値が出せます。この値を調整すると被雲率でフィルタをかけることができますがフィルタされない場合があるようです。
今回の画像で言えば、赤丸で囲っている下凸ピークは実はどれもほぼ90%以上の被雲率です。そのため今回これは無視することにします。

ここでNDVIは植物の活性度を測る指標で、植物の有無や成長の違いなどを見るのに使用され、近赤外域と赤色の波長の反射率を使って計算される指標です。その強度を縦軸として示しています。
NDVI値の強度は、分子:近赤外ー赤色、分母:近赤外+赤色として次の図にあるような計算になります。
つまり、植生は近赤外を強く反射し、赤色波長を吸収するという特性から、図上の”赤”の値が小さくなるとNDVI値が大きくなるというわけです。
詳しくはこちらの宙畑の記事を参照ください。

さて、値を見ると4月頃と12月頃で変化が見られます。
(わかりやすくするために縦軸0.6に黄色の線を引きました)
ここでは4月に入ると値が0.6より上にあり、12月以降は0.6より下にあります。
つまり夏頃に値が大きくなり、冬頃に値が小さくなることがわかりました。
これは春から夏にかけて芽が伸びつぼみをつけ成長し、秋から冬にかけて落葉するという、植物の繁茂状態をNDVIが反映していると考えられます。

3. タイムラプス機能を使ってNDVI画像の比較

NDVIでは植生(緑葉)の反射特性を利用して、より緑が茂っている場所目立たせることができます。NDVI以外にも水指標(NDWI)、積雪指標(NDSI)なども使うことができます。
詳しくはこちらの宙畑の記事を参照ください。

ポリゴン範囲についてタイムラプス機能を使って過去のNDVI画像を見てみます。

credit: EO Browser /©︎Map Tiler ©︎OpenStreetMap contributors

NDVIは葉の葉緑素による波長の吸収差を利用して得られます。
ここで2022年1月の葦毛湿原の一般的なカラー画像と湿原をさらに拡大した時のNDVIを比較してみたいと思います。

credit: EO Browser /©︎Map Tiler ©︎OpenStreetMap contributors ©︎Sentinel Hub
credit: EO Browser /©︎Map Tiler ©︎OpenStreetMap contributors ©︎Sentinel Hub

NDVI画像では、NDVIの値が大きい地域(植生が強い地域)が緑色で表され、NDVIの値が小さい地域(植物が少ない地域)を白色で表しています。
1月は落葉しているので光学写真からでも少し確認できますが、NDVI画像でも白っぽく見えることがわかります。

一方、8月のそれらも比較してみたいと思います。
8月は全体的に植物が成長するためカラー画像でも湿原が葉や花などで緑が茂っていることがわかり、NDVIでもほとんど一面に緑がかっていることがわかります。

credit: EO Browser /©︎Map Tiler ©︎OpenStreetMap contributors ©︎Sentinel Hub
credit: EO Browser /©︎Map Tiler ©︎OpenStreetMap contributors ©︎Sentinel Hub

4. 葦毛湿原1年間の変化の可視化

1月、4月、8月、11月で1年間の画像を取得してみました。
緑の色付き具合から、植生の繁茂状態がそれぞれ異なることがわかります。

credit: EO Browser /©︎Map Tiler ©︎OpenStreetMap contributors ©︎Sentinel Hub

まとめ

衛星データ解析で良く用いられるNDVIを使って、葦毛湿原のNDVIの1年間の変化を可視化することで、葦毛湿原での植物が1年を通してしっかりとライフサイクルを営んでいることがわかりました。
葦毛湿原では3月〜12月までの間に多種多様な植物が花を咲かせています。愛知県と静岡県にまたがる神石山(かみいしやま)に登山する際にも通る場所で人気のスポットですので、是非散策に行かれてはいかがでしょうか。

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