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後巷説百物語

京極夏彦 季刊妖怪マガジン「怪」掲載2001〜

江戸時代末期。晴らせぬ恨みや困難な問題を解決する「御行の又市」を中心とした小悪党達がいた。掲載1997〜「巷説百物語」「続巷説百物語」では、偶然彼らに関わった戯作者志望の若者「山岡百介」が中心に据えられ、小悪党達が「妖怪」の仕業に仕立てて物事を解決する様が描かれている。そして、この「後巷説百物語」(のちのこうせつひゃくものがたり)は、まだ江戸の風が残る文明開化の明治十年(1877年)を舞台にして描かれる。巷で騒がれる奇妙な事件の解決を試みる四人の青年(「笹村」「矢作」「倉田」「渋谷」)が、薬研界隈に九十九庵という閉居を構え、遠縁であるという娘「小夜」と暮らしている「老爺」の智慧を借り、事件の謎に迫っていく・・・。四人に「薬研のご隠居」と呼ばれるこの老爺の号は「一白翁」という。「御行の又市」一行から別れて四十年、「山岡百介」の晩年の姿である。

四人が持ち込む怪奇な事件には「妖怪」の風が吹く。
「赤えいの魚」島は一夜にして海に沈むのか。
「天火」火災の原因は人間の顔をした火の玉だと証言された。
「手負蛇」蛇はどれほど生きるのか。祟りは生きていた。
「山男」行方不明の娘が三年後に子供を連れて帰ってきた。
「五位の光」五十年前に青白く光る女を見た。その二十年後にも同様の体験をした。
「風の神」百物語をやり終えると本当に怪異は起こるのか。

偶然に山岡百介は又市一味の仕掛けに入り込み「小豆洗い」から百物語を語る。山岡百介の物語は、百物語の最後に語る「風の神」にて終わる。

「世に不思議なし、世凡て不思議なりですよ」
 百介は自分に言い聞かせるようにそう言った。
 小夜は矢張り、笑って聞き流したようだった。

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