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わたしを離さないで

📓『わたしを離さないで』
(原題:Never Let Me Go)
カズオ・イシグロ
2005年

2010年 イギリスにて映画化。
2016年 TBS テレビドラマ化。

📖
1990年代末のイギリス。幸福な少年時代を持たない臓器提供者が、語り手である介護人のキャシー(31歳)に、子供時代の思い出を話してくれとねだる。「薬と痛みと疲労で朦朧とした瞬間に、わたし(キャシー)の記憶と自分の記憶の境がほやけ、一つに交じり合うかもしれない」からと。キャシーは「ヘールシャム」という全寮制の施設で学んでいたころの過去を回想して語りはじめる。、

🖋️記憶の中の学園生活という見慣れたはずの景色であるはずなのに、キャシーの記憶に違和感を覚える。そこでの生活習慣や行事は、僕らが知っているものとは似ているようで似ていない。先生たちのふるまいも、どこか奇妙である。外界との接触を遮断された保護区域のようなこの「ヘールシャム」とは、いったい何なのか?そこに集められている生徒たちは、いったい何者なのか?そして、キャシーが現在就いている職業も、過去と何かつながりがあるらしい。僕らにとってキャシーの記憶の中は見慣れない景色である。キャシーの記憶は混乱しているのだろうか。それとも、この現実世界ですごす僕らが奇妙なのか。
🖋️
キャシーが語る、
《・・・彼女(ジュディ・ブリッジウォーター)の歌う『Never Let Me Go』は最高です。ようやく生まれた子供に対する切実な愛を、切実なゆえにかすかに抱く不安とともに「オ-、ベイビ-、ベイビ- わたしを離さないで」と歌うところが、何とも言えません。歌は1956年録音のLPアルバム『Songs After Dark』(『夜に聞く歌』)に入っています・・・》
・・・僕らの現実世界には、この楽曲も虚構である。歌手も存在しない。
🖋️
「ヘールシャム」という小さな世界の謎と、その外にひろがる大きな世界の謎。キャシーの記憶の中に引き込まれ、そして、その物語に魅惑されてしまうと、謎はすべて、自然にゆっくりと明かされていく。

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