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二十四の瞳

壷井栄 1952

「昭和三年四月四日、農山漁村の名が全部当てはまるような、瀬戸内海べりの一寒村へ、若い女先生が赴任してきた・・・・。」

洋服を着て自転車で通勤する若いおなご先生と、十二人の新入生との心のふれあいの物語。

作品の有名な場面。
生徒のいたずらでアキレス腱を切って自宅療養する大石先生の遠い家まで、親に内緒で、泣きべそをかきながら見舞いに行く一年生たち。
「どうしたの、いったい?」
「先生の顔みにきたん。」
「みんなで約束して、黙って来たん。」

悲しいことも、寂しいことも、「楽しいこと」で紛らわす。忘れられない思い出を作っていく。幼少期を過ごしていく。瀬戸内の小さな島の小さな分校で。

ところが、日本に不況と戦争の影が忍び寄ります。先生と子供達の人生にも。

ほんの小さな希望を見つけても、人生に起こる不幸を埋める事ができるのか。

・・・・できる。それが、ブリキのお弁当箱でも、小学一年生の時、皆で撮った一枚の写真でも。

戦争を挟んだ二十年。岬の分校に復帰した大石先生の歓迎会の場面で小説は終わります。全員は揃わない。三人は戦死。女の子も一人は病死、一人は行方不明。二十四の瞳は揃いませんでした。

出席できた中に、もう一人、戦争の犠牲として両目の光を失った者がいます。瞳の数が減っています。ですが、彼の瞳は、写真を見ることができていました。思い出を振り返る時は、瞳を取り戻しているのです。
写真を辿る指先が、少しずれていようとも。
ほんの少ししか不幸を埋めることができないのだけれど、思い出の中にも「希望」があるのです。

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