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タンタンの冒険シリーズ

エルジュ 1907〜1983

タンタンが初めて登場したのは、ベルギーの日刊新聞「20世紀」紙の子供向け木曜版付録「プチ20世紀」紙でした。「タンタン ソビエトへ」の連載が開始、23冊の物語がエルジュの生前に出版される〈タンタンの冒険〉シリーズの始まりです。デビュー後しばらくして、ベルギーのフランス語新聞「ル・ソワール」紙に移り、1946年にこの主人公の名前をタイトルにした週刊誌「タンタン・マガジン」が創刊されてからは、そこで連載されるようになりました。
初期の設定ではタンタンの新聞記者としての仕事ぶりがきちんと描かれています。当時のソビエト連邦、コンゴ、アメリカの時事ニュースが扱われています。ですが、紙面責任者の指示で、読者の子供達に政治的な思想を教え込もうとする意向や、人種差別的、右翼的な風潮が反映されていました。シリーズの後半、エルジュは、物語の中で、時事的なニュースを取り上げるのをやめて、登場人物達に重きを置いたストーリーを描くことに方向転換をします。そうする事で、第二次世界大戦中もナチスドイツ占領下のベルギーで連載を続けようとしたのでした。
タンタンは、正義感が人一倍強く機転がきく。ですが、それ以外に目立った特徴が殆どありません。〈タンタンの冒険〉を面白くしているのは、まわりの個性あふれるキャラクターなのです。

「スノーウィ」
フォックステリア犬。タンタンの忠実なペットであり相棒でもある。
「ハドック船長」
いきなり酒に酔った姿でシリーズに登場。口が悪くて気性は激しいが、信頼できる仲間として冒険には欠かせない存在。
「ビーカー教授」
マイペースで耳の遠い科学者。
「デュポンとデュボン」
似たもの同士の刑事コンビ。行く先々でその土地の民族衣装を見に纏い、それで上手く変装した気になっている。

紙面で連載された漫画を本として出版される際、エルジュはその機会を利用してセリフを修正したり、その時代にそぐわないコマを書き直したりしました。アフリカ植民地に対するベルギーの支配的な態度が表れる場面や、イギリス文化の誤った描写に、修正を重ねていきました。
シリーズ作品の中で、宇宙旅行やカラーテレビの発明、政治的なプロパガンダ、アルコール依存症などが取り上げられています。実際に起こっている出来事や近未来の発展が描かれています。けれども、タンタン本人はシリーズを通してずっと変わることがありませんでした。エルジュが仕上げた最後の作品「タンタンとピカロたち」(1976)だけ、タンタンはいつもと違う格好をしています。ニッカポッカと呼ばれるゆったりとした半ズボンではなく、ぴっちりとした長ズボンを履いています。エルジュにだけ見えている世界にタンタンを連れて行こうとしていたのかもしれません。

エルジュが世に送り出した永遠の少年記者「タンタン」はその「23の冒険」をともにした世界中の子どもたちに、時代をこえて親しまれています。

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