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家守綺譚

梨木香歩 2004

・・・学士「綿貫征四郎」の著述せしもの。・・・

一軒家で生活を始めた。私の学生時代の親友「高堂」の実家である。高堂はボート部に所属していた。山一つ越えたところにある湖でボートを漕いでいる最中に行方不明になった。高堂の父親から隠居するので家の守をしてくれないか、と持ちかけられたのだ。ある風雨の日、ガラス戸がガタガタカタカタと激しい音がする。庭のサルスベリが顔を押し付けるように体当たりをしているのだった。・・・イレテオクレヨウ・・・
やがて風雨がおさまった。すると今度はキイキイと音がする。床の間にある家主が置いて行った掛け軸から聞こえて来る。水辺の葦の風景で白サギが水の中の魚にねらいをつけている図だ。その風景の奥からボートが一艘近づいてくる。漕ぎ手は「高堂」であった・・・。

この小説の二十八ある見出しは全て「植物」となっています。
サルスベリ・都忘れ・ヒツジグサ・ダァリア・・・・・。
(そして七番目に「竹の花」があります。)
(どれも「いきもの」として、人に近い意思だけでなく、姿をも持っている。)

ー よく辿り着いたものだな。
ー ええ、なんだか大変でした。狸やら竹の花やら。

ー 僕の友だちも湖で行方不明になりましたが、気の向いたときに還ってくる。
と、云った。ダァリアはちょっと、泣きそうな風に顔をしかめたが、
ー ええ、そう、そういう土地柄なのですね。
と呟き、明々と提燈の燈る通夜の席に戻っていった。


綿貫征四郎
「私は、与えられる理想より、刻苦して自力で掴む理想を求めているのだ。」
「まだここに来るわけにはいかない事情が、他にもあるのです。家を、守らねばならない。友人の家なのです。」

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