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龍の子太郎

松谷みよ子 1960

山間の貧しい村にお婆さんと「太郎」と呼ばれる子供が住んでいました。山の動物や笛吹きの上手な女の子「あや」と遊んでばかりいる怠け者でした。ある日、寝込んだお婆さんが太郎に母親の話をします。樵だった父親は太郎の生まれる前に死んでしまったこと、母親の「たつ」は村の当番で山に行ったまま「龍」になり、たつが産んだ子供が太郎であること。そして「強く賢い子になって会いにきてほしい」と言い残して北の湖に去って行ったこと・・・。
あやが鬼に拐われ太郎は助けに向かいます。同時にこれが母親捜しの旅となります。旅の途中、白蛇や欲張りな長者、純朴な村人達と出会いながら、貧しい土地と人々の暮らしを見て、力だけではなく「愛と叡智と協力」で地域が発展することや、働く喜びを体験しながら、生き方を学んでいきます。
そしてついに北の湖で母親龍に出会います。立派に育った太郎に会えて嬉しいと涙を流す母親龍に、太郎は山や岩を崩して湖の水を川にして流し、豊かな大地を切り拓くべく、力が欲しいと懇願します。母親龍と共に死に物狂いで大岩や山にぶつかっていきます。とうとう成功したとき。母親は人間に戻り、出来た大地は豊かな土地となり、村人達を飢えから救うことになったのでした。

「龍の子太郎」は、長野県の信州・上田に伝わる民話『小泉小太郎』と安曇野に伝わる民話『泉小太郎』を中心に、秋田の民話など日本各地に伝わる民話を組み合わせ、松谷みよ子によって創作された物語です。『信濃の民話』の編集委員の一人であった松谷みよ子は、「水との闘いの民話」の多くが陰惨な内容であるなか、小泉小太郎を明るく雄大な物語として捉えました。『小泉小太郎』は、長野県上田地域に伝わる民話。人間の父親と大蛇の母親との間に産まれた少年・小太郎にまつわる物語。同じく長野県松本地域・北アルプス地域には『泉小太郎』という民話が伝わり、こちらは小太郎が自らの母親である竜と共に松本盆地を開拓する物語です。かつて松本盆地は湖であり、その湖には犀竜が住んでいて、小太郎は犀竜に乗って山清路の巨岩や久米路橋の岩山を突き破り、日本海へ至る川筋を作ったとされています。

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