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処刑(星新一ショートショート)

📘『処刑』(星新一ショートショート)
星新一 1959初出
「ようこそ地球さん」1972・収録

🪩
未来社会で生き続ける主人公は、機械に左右される人生に耐えかねて、衝動的に殺人を犯してしまう。そして機械によって行われる裁判で死刑となり、地球から遠く離れたかつての植民地の星へ送り込まれる。砂漠が広がる世界に主人公を降ろした宇宙艇は、直径三十センチの「玉」と乾燥食を残して地球へと戻っていった。この「玉」はこの星で唯一の水を作ることのできる機械であり、同時に処刑装置であった。ボタンを押すとコップ一杯の水が出る。乾燥食を水に溶かせば食糧となる。処刑地で生き延びていくためには、この玉のボタンを押せばよい。ただし、この玉は、一定回数のボタンが押されると、瞬時に爆発して周囲三十メートルの物を吹き飛ばす。その時まで何度ボタンを押せばよいのかは分からない。
主人公は、乾きに耐えきれず、苦しんだ末に死を覚悟してボタンを押す。水が出た。これから、このように死の恐怖を何度も味わうのだ。玉を壊そうとしたり、別の死刑囚を脅してみたりしても、全て失敗におわる。恐怖と絶望が頂点に達して、主人公はとうとう絶叫する。そして、気がつく。人生とは、毎日ずっと死の可能性が潜んでおり、選択をしながら過ごしている。ボタンを押す行為は、日常生活で行なっている選択行為と同じである、と。

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