見出し画像

見上げてた夢の

いつかは死ぬんだよ 人間、誰しもいつかは…

そんな分かりきった言葉

身近な人の死を受け入れるのに

そんな、 知ったような言い方! 

歯を喰い縛り

振り向き

睨み付けた吉岡は

泣いていた。 

確かに泣いていたように見えた。

吹き上げかけた言葉と感情は

ふいに力を失って

虚しさとどうしようもない

何処へも行きようの無い

哀れな自分の影に溶けていった。

夏の蒸し暑い風が

黒いスーツの二人を包んでいた

前日

突然落とされた落雷のような衝撃を

電話口の相手から告げられ、言葉無く

その場に経たり込んでいた。

自分の意思とは関係無く頬をつたう涙と

喉の奥の痛みが次第に強くなっていくのを

感じていた、と同時に堪えていた声が

溢れだし、 やっと出てきた言葉は

なんでだよ…なん…で…  



電話口で話す相手の内容など

全く受け取れていなかった

会話をしていても、なにを話しているか

全く覚えていない

そんな状態のまま電話を切った




高校生だった俺たち三人は

卒業後もお互い家庭をもつまで

連絡を取り合い

朝まで呑み明かしお互いの夢や悩みを語り合った

あいつは俺の夢だった

バスケットボールでセンターだったあいつは

背が高くゴールに手が届く

俺はいつも見上げていた

葬式の帰り、吉岡に

久しぶりに昔行ってたあの店で

思い出話でもしねーかって誘ってくれた

本当に吉岡もあいつと仲良かったから

本当に楽しかったから、すごく笑って

本当に

すごく泣いた 

二人ともかなり酔って

帰り道

公園のバスケットコートに忘れられたボール

久しぶりにOne on One 一対一の勝負

さすがに酒も回ってボロ負け

本当 楽しかった ありがたかった‥


吉岡と別れ

ひとり、コートに残った俺は

最後くらいとゴールに

シュート! 

ガンッ

ボールはリングに当たり

確かに外した

その瞬間 あいつが、

確かにあいつが

見えた

一瞬外したボールを

あの時みたいにゴールにねじ込んだ

ははっ

その場で膝をついた俺は泣きながら笑っていた

「あいつやっぱりかっけーわ 」

夏の涼しい風が頬を乾かしてくれた



画像1









この記事が参加している募集

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?