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おはなし書いてます!

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誰にでもあるような一人ぼっちで寂しい気持ちとか、ひっかかってること、読むと少しあったかくなるものから、心が焦げる匂いがするような嫉妬や執着、憎しみみたいなものまで。 絵本のような…
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#エッセイ

ペトリコールの夜

夜の坂道、バケツをひっくり返したような土砂降り雨の後。 街灯の光で地面はキラキラと白く光っている。 さっきから口元のマスクが苦しい。 僕は梅雨が嫌いだ。 「苦しいね」 隣にいた彼女がふふと笑った。僕の上司だ。 あまりにも苦しいので、僕は思い切ってマスクを下にずらした。 その瞬間、懐かしいような雨の匂いがした。 マスクをするだけでこんなにも匂いがわからなくなるんだ…僕はすごく驚いた。 どうりで、今年になってから日々が無味無臭なわけだ。 「雨の匂いに名前があるんですけど

どこかの私のパラレルワールド、6月13日。

そのトンネルはとても長くて、出口は全く見えなかった。 ナビが古いのか、トンネル自体も表示されていない。 僕はあくびをしながらハンドルを握る。 「今年も、半分来ちゃったね」 彼女が横でため息をついたので僕は驚いた。 もう六月。でも実感がない。 まるで自分たちの日常が何者かに食べられてしまったような感じだった。 今年はとてもおかしな年だ。 春はいつもより早い春一番に綺麗さっぱり吹き飛ばされてそのまま行方不明になった。 だから今年は桜を見ていない。 さよならもはじめましても同

どこかにある、5月25日。

少し違う世界線の、どこかにいる私達の話。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 静かな夜の、公園のベンチ。 僕はホットコーヒー、 親友の男は缶ビール。 少しみんながそわそわしている、5月25日。 「あいつを倒して全部が終わったらさ、ゆっくり旅行にでも行きたいなあ。見た事ない景色を見て、その場にいるのを体感して。みんな同じこと考えてるだろうな」 親友は缶ビール片手に大声で言った。 僕たちは横並びになったベンチにバラバラに座っていて だから大声なのかと一瞬思ったが、 はじめか