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おはなし書いてます!

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誰にでもあるような一人ぼっちで寂しい気持ちとか、ひっかかってること、読むと少しあったかくなるものから、心が焦げる匂いがするような嫉妬や執着、憎しみみたいなものまで。 絵本のような…
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#おはなし

【短編のお話】黒くんとまだ名前も知らない色

久しぶりに絵本のようなお話を書きました。 こどもたちへ。 そして、こどもでも大人でもないあなたへ。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ あるところに真っ黒な 黒くん がいました 黒くんはとても複雑な色でした 色々な色が混ざって黒くんは生まれたのでした 黒くんはいつも悩んでいました まっすぐ夢を追いかける赤くんや 自分に自信を持っている青くんに憧れました 二人はとてもシンプルな色でした でも黒くんの中にはいつも様々な色が渦巻いて 二人のようにはなれませんで

どこかの私のパラレルワールド、6月13日。

そのトンネルはとても長くて、出口は全く見えなかった。 ナビが古いのか、トンネル自体も表示されていない。 僕はあくびをしながらハンドルを握る。 「今年も、半分来ちゃったね」 彼女が横でため息をついたので僕は驚いた。 もう六月。でも実感がない。 まるで自分たちの日常が何者かに食べられてしまったような感じだった。 今年はとてもおかしな年だ。 春はいつもより早い春一番に綺麗さっぱり吹き飛ばされてそのまま行方不明になった。 だから今年は桜を見ていない。 さよならもはじめましても同

あの世で待ち合わせ

ピンクと水色と紫の巨大なモクモク雲がうずまく、マーブル模様の空の下。 地面は舗装されておらず、どこまでも黄土色の土が広がっている。 そこにある、少し傾いた「あの世 一番地」という看板。 その看板に、学生服の男の子が腰掛けている。 そこに砂埃を舞い上げながら、自転車に乗ったガイコツ男が通りかかる。 ガイコツ男は彼に気付き、声をかける。 「見ない顔だな。新入りか?」 「あ、はい」 ジロジロと見る。 「はあ…お前何歳だよ? 可哀想にね…」 ため息をつき、再び自転車に乗ろう

どこかにある、5月25日。

少し違う世界線の、どこかにいる私達の話。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 静かな夜の、公園のベンチ。 僕はホットコーヒー、 親友の男は缶ビール。 少しみんながそわそわしている、5月25日。 「あいつを倒して全部が終わったらさ、ゆっくり旅行にでも行きたいなあ。見た事ない景色を見て、その場にいるのを体感して。みんな同じこと考えてるだろうな」 親友は缶ビール片手に大声で言った。 僕たちは横並びになったベンチにバラバラに座っていて だから大声なのかと一瞬思ったが、 はじめか

電車の来ない駅

この世の果ての果ての果て 真っ暗な宇宙のような駅のホームに 宙ぶらりんの、まあるい電球の下 一人の女が立っていた 電光掲示板は文字化けして弱く光り 今や 全くその役目を果たしていない 電車が来る気配はない そこにやって来た透明な駅員は これは珍しいと 女に声をかける 「こんばんは」 「あら、こんばんは」 「私が見えるのですか」 「お洋服だけ。でもそこにいるのはわかりますよ、駅員さん」 風が ごおおお……と吹く 線路はどこまで行っても暗闇だった 「電車を待っているんです