街角
僕の背中に降り注ぐ朝日はほの暖かく、少し湿り気のあるひんやりとした空気はなんだか僕の心を湿っぽくさせる。手に持った赤褐色の黒バラは、寝起きみたいな部屋着姿の僕には全く似合わなかった。
だけど、あの人はバラが好きだった。
「華やかで、愛って感じするでしょ? だから好き」
部屋の窓から街を見下ろすと、ちょうど黒バラを置いた街角が見える。
陽が傾くに連れて、バラは路地の暗闇に吸い込まれていくように日陰になる。その場所はまるで狙ったかのように朝日だけが差し込み、それ以外の時間は陽が差し込まない。だから、きっとすぐに枯れてしまうだろうなと思った。
……そもそも花束だし。
僕はその花束が役目を終えるまで見守ろうと思った。雨の日も風の日も猛暑の日も雪の日も、とうに枯れた花束を、あの人との思い出が詰まったこの家から見守ろうと思った。
次の朝、窓から街を見下ろすと花束は消えていた。