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【短編小説】翼をくれよ


ピアノの旋律が美しくはじまりを奏でる。

興味がなくて半開きのままの目をなんとか閉じないように気をつけながら、口を開く。

「今私の願い事が叶うならば、翼が欲しい…」

歌に乗せると無くなる違和感は、文字で考えると、やけにわがままに、俺には映る。

この歌がどんな風に作られたのかなんて知らない。だからこんな風に残酷に思えるのかもしれないけど、だからって誰かに責められたとしてもそこには何の責任も伴わない、と思う。

この歌の主人公は、やけに利己的だなあとずっと考えていた。

富や名誉はいらないけど翼がほしいって、そんなもん、富や名誉の方が手に入れやすいに決まってるじゃんか。どう考えたって、翼の方が手に入れにくい。しかも、そんなに欲しいくせに、「ください」となんとなく消極的だ。

俺ならそうだな…と考えた台詞を、思い浮かべて頭の上で文字に起こすと、なんだかへらへらとしてしまった。
そのまま、学校の裏門になぜか植えられたヤシの木のうえを飛んでいく自分を、小さく想像した。


おわり

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