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うつしおみ 第31話 冬を歩む

凍てつく冬の日は、
風に晒された身体が透明な塊になろうとする。

わずかに舞う雪に気づいて空を見上げ、
灰色のぼやけた雲に目を凝らす。

吐き出す白い息は強く生きていこうと誘うが、
実のところ、魂は歩くことさえ精一杯だ。

世界はいつも魂を痛めつけようとし、
ときには陽だまりのように優しく抱きしめもする。

気まぐれな世界のご機嫌を取ることに疲れ、
祈りの言葉も枯木にまとう霜と固まる。

何もかもが凍りついて動かなくなれば、
湿った憂いが心を蝕むこともなくなるのか。

そこで何も起こっていないから幸せなのだと、
笑顔でいう世界の深い闇にも落ちたくはない。

そんな闇に落ちるくらいなら、
真冬の夜でも凍える身体をさすりながら歩いて行こう。

そうして自分が誰なのかを記憶の奥から探り出し、
いつかそれをこの世界に突きつける。

なぜ魂が生きているのか世界は知らないだろうが、
魂はいま確信を持って歩んでいるのだ。

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