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うつしおみ 第9話 冬の想い

その痩せた木は、青く澄んだ冬空に向けて
細長い枝を伸ばしている。

冷たい風にさらされながら、
そうしていても何が与えられるわけではない。

乾いた空は相変わらず無表情で、
凍りついた大地は眠りから覚める気配もない。

その木だけが、
何かの希望を探すよう冬空の下に立っていた。

孤独で悲しい姿かもしれないが、
木はそこにいる意味を噛み締めていた。

昔のこと、
この地に人間を越えようとした若者がいた。

その若者は空を見上げて両手を伸ばしたまま、
黙ってそこで何かをつかもうとしていた。

いつしかその若者は小さな木になって、
そこに根づいてしまったという。

空と大地をつなぐ存在として、
ただひとりそこに想いを沈めた。

冬になるとその想いが木に宿り、
ただその静かな時間に存在を重ね合わせるのだ。

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