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うつしおみ 第8話 世界の扉
世界はその時の始まりから、
美しいシンフォニーを奏で続けている。
その調べに乗って色とりどりの光が、
メリーゴーランドのように踊っている。
終わりなど来ないかのように回って、
そこで世界は何かを忘れたのだ。
色彩はその目にあまりにも美しく、
見ているだけで、甘い歓喜が溢れてくる。
忘れたことさえ忘れて世界が踊り続けても、
足元の小石はそこから動かずにいる。
時が歩みを緩めてバラードを歌えば、
世界はその青く透き通った調べに涙を流す。
足元の小石だけが始まりの扉を何度も叩いて、
目覚めを祈り続けている。
演奏を最後まで聞くことなく、
聴衆たちは立ち上がって部屋を出ていく。
この舞台が終わるのだと知れば、
記憶の箱にそれをしまい込んで抱きしめる。
世界に忘れ去られた何かは、
いまも始まりの扉の向こうで静かに眠っている。
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