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うつしおみ 第42話 彼岸の老人
自分が人であることは晴日の喜びであり、
灰色に渦巻く戸惑いでもある。
人はその気持の間で揺れ動き、
この世界で生きることの意味を探るのだ。
楽しく満たされる時間に住めば、
いつまでも変わらずに生きたいと願う。
苦痛に耐える時間に住めば、
いますぐにでもここから消え去りたいと祈る。
その住処は延々と歳月を流れて、
魂はその流れにただ身を任せている。
そうして歳月の大河に浮き沈みしながら、
魂は向こう岸に立つ人を見た。
それは杖を持った老人で、
両足で大地に立ち、私をじっと見つめている。
その姿は視界から消えることなく、
こちらに来るように誘っているようだ。
魂は岸へと向かって泳ぎはじめるが、
強い流れに引き戻されて近づけない。
そこにたどり着いたなら、
魂の歳月は止まり、人であることも終わるのだ。
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