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うつしおみ

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真実を求めてこの世界を旅する魂の物語。
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2024年1月の記事一覧

うつしおみ 第45話 未来の記憶

暗黒の夜に生まれた魂には、 すでに遥か未来の記憶が宿っている。 その記憶は魂の奥深くにある核心として、 太陽のように輝きを放っている。 その白き輝きが絶えることはなく、 魂が終わるまで暗黒の夜を照らし続ける。 魂は自らがそんな太陽だということを知らず、 きらびやかな世界に目を凝らす。 そこで光に煌めく欠片を見つけると、 喜び勇んでそれをその手に握りしめる。 握った手にはそんな光の粒でいっぱいになり、 それを見て魂は心満たされる。 魂が終わるとき、その握った手は解か

うつしおみ 第44話 真実の扉

魂は焼けた大地に座り込み、 血と泥にまみれて震えている手のひらを見る。 この世界でどう頑張って生きても、 傷つけ合う渦へと巻き込まれてしまう。 安寧の地を望んで旅しても、 辿り着く先はいつも殺気立つ新たな戦場なのだ。 わけも分からずに戦いに明け暮れ、 終わったあとには重く苦い疲労だけが残る。 生き残った喜びもなく、敗れた悲しみもなく、 ただ虚しさを支えて息をする。 こうして生きていくことを受け入れるのか、 それともこの世界に目をつぶるのか。 何が正しく何が間違いな

うつしおみ 第43話 幻想と真実

魂は美しい景色を見て心を揺さぶられるが、 景色の本質を知らない。 賢者の物語を聞いて琴線に触れるが、 物語の本質を知らない。 世界からの贈り物に喜んで感動するが、 贈り物の本質を知らない。 その本質が何かということに興味がなく、 それを知ろうともしない。 魂は色彩豊かな幻想を受け取り、 そこに宿る透明な真実が見えていないのだ。 幻想はいつか色褪せて消えてしまうが、 真実が消え去ることはない。 魂は大切なものを失ったと感じて悲しむが、 そこから何も失ってはいない。

うつしおみ 第42話 彼岸の老人

自分が人であることは晴日の喜びであり、 灰色に渦巻く戸惑いでもある。 人はその気持の間で揺れ動き、 この世界で生きることの意味を探るのだ。 楽しく満たされる時間に住めば、 いつまでも変わらずに生きたいと願う。 苦痛に耐える時間に住めば、 いますぐにでもここから消え去りたいと祈る。 その住処は延々と歳月を流れて、 魂はその流れにただ身を任せている。 そうして歳月の大河に浮き沈みしながら、 魂は向こう岸に立つ人を見た。 それは杖を持った老人で、 両足で大地に立ち、私を