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うつしおみ

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真実を求めてこの世界を旅する魂の物語。
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2023年12月の記事一覧

うつしおみ 第41話 呪縛と解放

闇夜に激しく鐘が打ち鳴らされ、 ほとばしる光とともに魂は目を覚ます。 その光は美しい世界を創造し、 魂にはそこで生きていく身体が授けられた。 その身体は急激に光を失って黒い影となり、 世界の底に落とされる。 魂は身体に浸透してひとつになり、 それを自らの拠り所とした。 そうして魂は世界という領域に 縛り付けられることになった。 いつしか魂は魂であることを忘れて、 身体だけが自分だと思うようになった。 歳月を過ごして身体の生命が尽きると、 また新しい身体が授けられた

うつしおみ 第40話 無知と真実

世界に舞い降りた魂たちは、 思い思いの方向を向いて歩いていく。 誰かが山奥で金を掘り当てれば、 多くの魂たちがこぞってそこに集まる。 そこから金がなくなれば、 泥と血に汚れたまま魂たちは散り散りに去っていく。 何のためにというよりは、 そのときに欲望が激しい炎を燃え上がらせるのだ。 生きる歳月をその炎に任せ、 泥に塗れて血を滲ませその身を削っていく。 小さな金色の塊を酒に変えて楽しんでも、 それが悪いことだとは思えない。 楽しく愉快な時間は終わりを告げ、 世界はさ

うつしおみ 第39話 循環の停止

柔らかい太陽の日差しと湿った土の匂いの風が、 魂に何かを思い出させる。 この世界に生まれたときには名前すらなく、 存在する何の価値もなかった。 魂は自分が何者かを知るために名前を受け、 世界から何かを手に入れようとした。 そうして何者かになれば、世界での価値が高まり、 一時の安心を得ることができた。 だが、そうして生きてもいつか死が訪れ、 得たものすべては世界に還される。 魂は名前を失い、純粋な自我という魂に戻り、 ただ闇雲に霧の夜をさまよう。 そんなときは光さえ

うつしおみ 第38話 痛みの薬

擦りむけて血を滲ませる指先の痛みが、 世界は現実であると言っている。 すべては幻で何も起こっていないのだと、 語る預言者さえその痛みに堪えている。 この世界の痛みという現実が甘い夢を砕き、 魂は生きる辛さに染まっていく。 その辛さが癒えるまでの長い時間は幻などではなく、 決して逃れられない魂の呪縛なのだ。 痛みから自らを守ろうと様々な策を用いるが、 その呪縛は魂である限り解かれることはない。 その痛みは自分が魂でないことを 知らしめるための薬として世界にもたらされて