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明暗差の激しい舞台で試行錯誤しながらダンサーを撮影した話

舞台照明家兼フォトグラファーとしては、いつかステージ写真を撮ってみたいと思っている。

ステージ写真は、その名の通り舞台作品を撮影するものである。舞台では出演者が動き回り、照明も光源の位置や明るさが変化し、激しく点滅することもある。撮影された写真は宣伝などに使われるため、常に変化し続ける中で出演者をきれいに尚且つ作品の雰囲気がわかるように撮影しないといけない、難易度の高い撮影である。

あるとき、知り合いの舞台照明家たちが集まって舞台照明の実験会をやるという話を聞いた。これは舞台撮影できるチャンスではないかと思い、舞台照明家フォトグラファーとして参加してみた。

企画の趣旨は、二人の舞台照明家がそれぞれダンサーの動きを見てその場で照明のプランニングを行い、実際に機材を仕込んでオペレートするというもの。出演者は男性のダンサーが1名のみ。無音の状態で3分程度の創作ダンスを踊る。この創作ダンスは、この場で初めて披露される作品である。舞台照明家2名の他に、参加者も30名ほどいる。全員で機材の仕込みを行い、本番は見学するというスタイルである。

会場は、中野にある小劇場。小劇場というのは、雑居ビルの中に作られているその名の通り小さな劇場である。ぶち抜かれた天井には鉄パイプが張り巡らされ、その下には木の台で作られたとても低い小さな舞台が備わっている。客席も木の板で段々に作られ、パイプ椅子が並べられている。何から何まで手作り感の溢れた、非常に雑多な劇場である。東京には無数の小劇場が存在していて、劇団が演劇を上演するときはこういった小劇場で上演することのほうが多い。

今回の撮影には、α7ⅢとTAMRONの20-40mmで臨んだ。と言ってもこれしか持っていないのだけど。

小劇場の中は非常に暗い。窓がない上に、最低限の蛍光灯が点灯しているだけである。こういった暗い空間での撮影は初めてだったので、いろいろ設定を試行錯誤しながら撮影してみることにした。

劇場を照らす蛍光灯
照明機材を吊るための鉄パイプ

さて、まずはダンサーが踊りを披露し、それを舞台照明家たちが見ながら頭の中で照明プランを考える。プランが決まったら、実際に照明機材を仕込んでいく。

特殊な形状のコードで電源を取る
使う機材を舞台上へ運ぶ

人数がいることもあり、あっという間に照明家たちが考えた照明プラン通りに機材が仕込まれた。このあとは、機材から照射される光の位置や大きさ等の当て方を調整していく「シュート」である。

このときに照射される明かりは1台のみのため、非常に明暗差が激しい。モードはマニュアルで、ひとまずISOを5000に上げてみる。F値は4.0で、シャッタースピードは1/80秒。なんとか写せることはできた。

実際に人物に当てて調整する

続いて、1回目の本番。実際にダンサーが踊り、それに合わせて1人の照明家が照明を操作する。ダンスの動きは早い。照明は明暗と光源の位置が常に変化する。果たしてついていけるのか。

ダンサーが下手(舞台から見て左)から出てくると同時に横からの強烈な光が側面と奥の壁を照らす。ダンサーは光線の前に立ち、シルエットの状態で踊る。

ISO6400 f7.1 1/60秒

光線の中にダンサーが入り、ゆっくりと腕を下ろす。

ISO6400 f7.1 1/60秒

次に、下手から別の光源がダンサーを明るく照らす。動きも早くなる。

ISO10000 f7.1 1/400秒

1回目は惨敗だった。思った以上に難しい。続いて、もうひとりの照明家の番である。シンプルにハロゲン電球の機材2灯しか使わなかった最初の照明家に対し、ムービングライトという動きのあるLEDの照明とハロゲン電球の機材を両方使う。

ひとまず最初にISOは10000まで上げておく。f値はダンサー1人しかおらず、セットもないのでひとまず3.5にしてみた。シャッタースピードはなんとなく400秒にしてみた。

ISO10000 f3.5 1/400秒
ISO10000 f3.5 1/400秒
ISO10000 f3.5 1/400秒
ISO10000 f3.5 1/400秒
ISO10000 f3.5 1/400秒
ISO10000 f3.5 1/400秒
ISO10000 f3.5 1/400秒

ハロゲン電球のときはきれいに肌の色味が出ている上に、ハレーションで輪郭も見える。しかし、LEDの色味が入ると明暗差が激しすぎて難しい。もう少し露出を上げたほうがよかったかもしれない。

LEDが出てきてから、舞台照明家たちはハロゲンとの色味の差に苦心しているのだけど、フォトグラファーたちも苦戦しているに違いない。

それよりも、シャッターを押す速度がダンサーの早い動きに付いていけていないという問題もある。ここっていうポーズのときにシャッターが押せていない。連写モードでシャッターを切ればよかったのだと、家に帰ってきてから気が付いた。

次に、最初のプランとまた違うプランでやってみる。1台斜め前方上部から機材が足された。それだけでかなり明るくなる。さすがにISOは5000に下げた。シャッタースピードは1/80秒。ちょっと遅いのだけど、このときは気付いてなかった。露出はもう少し落としてもよかったかも知れない。とにかく大量に撮りたくて、ここからはほぼ設定をいじっていない。

ISO5000 f3.5 1/80秒

両側から挟んだ明かりだと、右側の半身が白飛びしてしまっている。光源はハロゲン。

ISO5000 f3.5 1/80秒

と、思っていたのだけど、光源から離れればちょうどいい明るさになった。

ISO5000 f3.5 1/80秒

LEDムービングライトで薄いピンク系の色味を出した明かりでは、露出もちょうどいい感じだった。

ISO5000 f3.5 1/80秒

ただやはりシャッタースピードが1/80秒ではやはり早い動きのときに手がぶれてしまう。躍動感を見せるにはいいのだけど、もう少し早くしたほうがいいのかも知れない。

ISO5000 f3.5 1/80秒
ISO5000 f3.5 1/80秒

今回一番難しかった照明が、万華鏡のように変化する機材である。全体が暗い中で使用しているので、明暗差も激しい。かろうじて一枚だけまともな写真が撮れた。

ISO5000 f3.5 1/80秒

これにて、照明の実験会は終了。今回の舞台は特殊といえば特殊で、ここまで極端に使用する機材の少ない舞台はそうそうない。実験会という場で、大いにこちらも撮影の実験をさせてもらえるいい機会になった。

またこういう自由に撮影できる舞台があれば、ぜひ参加してみたい。

せっかくなので、今回照明家たちのためにダンスを創作し、何度も踊ってくれたダンサーを紹介しておく。わたしはダンスには詳しくはないけど、舞台上にセットも何もない素舞台と無音の中でも、身体と動きで物語を語ることはできるのだと感じた。

福永将也(Dance/Capture/Light)
Twitter:https://twitter.com/original_kcal




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