クラウドソーシングで受注したWebデザイン案件で失敗した話
今から7年くらい前、私は舞台照明の仕事から離れてWebデザインの仕事をしていたことがある。
一時はWeb制作会社でアルバイトをしていたのだが、フリーランスで仕事をしていこうと無謀にも退職したのだけど、Webの仕事を獲得するアテがなかったため、クラウドソーシングで仕事を獲得するべく活動をしていた。
今回はクラウドソーシングで獲得したWebデザインの案件で経験した失敗談をしようと思う。
クラウドソーシングでの仕事の獲得方法
クラウドソーシングでは、案件の種類がコンペ方式とプロジェクト方式の2種類ある。
コンペ方式はクライアントからの依頼に対し、直接作品を提出する。
案件依頼の募集期間が終了すると、提出された中から作品が選ばれて選ばれた作品にのみ報酬が支払われる。
プロジェクト方式は、見積もりや進行の方法などを含めた提案を行い、その中からクライアントが提案を選定する。
私は当初、コーディングに自信がなかったこともありコンペ方式での提案を主に選んでいた。
コンペ方式でのWebデザイン単価は、トップページで3万円台とかなり相場より安い。それでも、実績と経験を積めるならとせっせと応募していたのだけど、時間がかかる割に選ばれないと一円にもならない。
ライティング案件からWebデザイン案件に
このままでは、生活すら危うくなると危機感を覚え、定期収入を増やすために、プロジェクト方式の記事ライティング案件に応募することにした。
その案件は、ライターが書いた記事をHTMLとCSSで装飾して記事投稿する内容だったのだけど、月に何万円かは稼げそうな感じがしていた。
その際、プロフィールにWebデザイナーと書いていたお陰でクライアントからWebデザインの相談を受け、別の既存サイトのリニューアルデザインを受注することになった。
Webサイトのリニューアル案件がスタート
リニューアルするサイトは、特定のサービスを比較しているアフィリエイトサイト。
案件のディレクションとコーディングはクライアント側が行い、私はサイトのデザインだけ行う。
費用に関しては、こちらの言い値で出してくれるとのことだったので、相場を調査した上でちょっとだけ安めの値段で出した。
メッセージのやりとりは、クラウドソーシングの機能を使わず、利便性の高いチャットワークを使用することになった。
デザインリニューアルということで、トップページと下層ページの2ページのみのデザインだと勝手に思ってしまい、詳細な打ち合わせや契約書の作成などは一切行わずに案件がスタートした。
いきなり長い下層ページからスタート
新規でもリニューアルでも、まず最初に作成するのはトップページからデザインしていくのだけど、先方から最初に直したいと提示されたページは、非常に長い下層ページだった。
ここで若干「あれ?」とも思ったのだけど、このページを作ってしまえば、あとはパーツやトーンなどをトップページと別の下層ページに反映すればよいと考えて、まずはPC版のデザインを作成することにした。
サイトで扱っているサービスは、くらげ自身は使ったことのないものだったが、イラストを用いた独自の世界観があったので、先方のイメージに近づけるようにして作成していった。
PC版のデザインはほぼ一発OKとなり、ここでデザインの方向性も決まったため、続いてスマートフォン版の作成に入る。
スマートフォン版で雲行きが怪しくなる
スマートフォン版に入った途端、いきなり雲行きが怪しくなった。
本来ならディレクターが作成するべき、サイトの仕様書及び枠組みの書かれているワイヤーフレームがないということもあって、双方で考えている仕様が食い違い、態度を急変させるクライアント。
しかし、いまさら「ワイヤーフレームがないから」とも言えず、ここで案件がご破産になってしまえば、今までの苦労は水の泡。すでに、生活はギリギリの状態。なんとか先方の意向に近づける形で、スマートフォン版の作成が終わった。
失敗ポイント
案件に取り掛かる前に詳細な要件定義を行わなかった。
Web制作案件に入る前には、必ず要件定義を行う。要件定義は、「なぜリニューアルするのか」など、基本的な質問から始まり、デザインから仕様までを決める。今回、数ページのリニューアルだからと省略してしまったことが、仕様に関する意見が食い違う要因となってしまった。
ワイヤーフレームがないことを伝えられなかった。
本来、ワイヤーフレームはディレクターが作成するぬのだけど、なければデザイナー側で作成する。もちろん、ディレクションすることにもなるので、別途費用になる。ここを、最初のうちにうまく詰められなかったのが余計問題をややこしくすることになった。
果てしなく長い下層ページ
次に依頼されたのは、別の下層ページ2ページ分。どのページも内容が最初に作ったものと違うため、新たにパーツを作らないとならない。何よりも頭を悩ませたのは、通常の10倍はあるページの長さだった。
当時はPhotoshopでデザインを作成していたのだけど、下層ページを作成する際、通常のサイトであれば2,000px程度の長さになる。どれだけ長い下層ページでも、7,000px程度。ところが、今回作っているページはPC版でも30,000pxを軽く超える長さになった。
Photoshopでは、30,000pxを超えると拡張子が.psdではなくなり、ビッグデータ形式の.psbになる。
Web制作で使っていたMac miniはメモリを16GB積んでいたのだけど、それでもHDDのため動作が非常に遅くなる。開くだけで5分掛かり、ちょっとパーツを動かすだけでも虹色くるくるが出て作業が2分ほど中断されるほどだた。
あまりに効率が悪いので、途中からはSSDでメモリ8GB積んでいるMac Book Air2013で作業していたのだけど、それでもファンが何度か回るほど負担がかかっていた。
たびたび襲いくる修正の嵐
PC版はまだそれほど修正はなかったのだけど、ひどかったのはスマフォ版だった。一度の提出で、5箇所以上の修正が来て、しかも「ここは縦ではなく横にしてほしい」「この部分をこっちへ」などという、簡単には修正できない変更指示が来る。
デザインというのは、1pxの余白さえ考え抜いた上で成り立っているため、ジェンガのように崩れないように変更するだけで時間がかかる。これには精神的に参ってしまい、デザインを提出したあとはチャットワークを見るのが非常に恐ろしかった。
失敗ポイント
修正回数の制限をしなかった。
そもそも、最初にきちんと要件定義をしっかり詰めた上でワイヤーフレームを元にデザインを行えば、修正は頻繁に発生しない。とは言え、クライアントはデザインが上がってみて初めて「やっぱりここはこうしたい」という欲が出てきてしまうもの。多少なら対応はするけど何度も付き合ってしまうとキリがない。そのためにも、ある程度修正に関しては制限しておいたほうが制作側としては消耗しない。ここも、最初のうちに決めておくべき点となる。
ページの長さ制限をしなかった。
7,000pxを超えてしまうと、もはや同じページというよりは数ページがくっついていると考えたほうがいい。下層ページに関しては、ページ数で料金を計算していたため損している。ページの長さに関しても7,000px以上は別ページと換算とするべきだった。
やっとトップページのデザインに取り掛かる
トップページの制作まで来ると、ほぼ先方の考えているサイトの方向性は見えてくる。
まずは、ワイヤーフレームをこちらで作成。Photoshopは前述の通り非常に重かったので、Adobe XDに変更した。
デザインは、下層で使用したデザイン要素を残しつつ、競合サイトとの差別化を図るためにちょっと攻めたデザインをしてみることにした。
このトップページに関しては、それほど修正もなく終了。ここでそろそろ終わりも見えてきた頃だと思ったら、実はまだ終わりは見えていなかった。
今度は別のトップページと下層ページ作成がやってきた
ここまできて、ようやくサイトの全体像が見えてきた。前回作ったのは、総合トップページで、次に作るのはこのサイトの3つの企画に関するトップページになる。
おそらく、先方も最初から考えていたわけではなく、サイトリニューアルをしながら途中から考えたのだと思う。とは言え、ある程度作成するページは確認しないと、作っていて訳がわからなくなってくる。
下層ページの作成に入り、また双方の考えているイメージが食い違い始める。先方の出してきた案がコーダーさんにとって負担の掛かりそうなJavaScriptを組む仕様だったので、さりげなく回避したデザインにしたのだけど、「これではこっちが考えていたイメージと違う」となり、何度もデザイン修正が発生した。
失敗ポイント
作成するページが何ページあるか確認をしなかった。
仕様の提案にコーダーを巻き込めなかった。
先方がJacaScriptを組む提案をしてきた際に、コーダーを巻き込んで説得できれば面倒にならなかったと思う。
12月にサイト公開
デザイン自体は、11月には終了し、あとはコーディングと一部システムの組み込みが終われば新サイトが公開となる。先方からは、12月頭になって「アコーディオンメニューの中身って作りましたっけ?」という、何を今さらな連絡と「もうじき公開」という連絡が来た。
しかしその後連絡はいっさいなく、気になってサイトを見たらいつの間にか公開となっていて、音沙汰がないまま案件は終了した。せめて社交辞令でもいいから、最後に何か一言あってもいいのにと思ったのが正直な気持ちだった。初めての案件としてがんばってきただけに、切ない幕切れとなった。
初めての案件を終えてみての感想
今回、しっかり打ち合わせをしなかったこと、途中で進め方に疑問を持ったけど先方に伝えられなかったのは、なんとしても収入を得るためにこの仕事を落としたくなかったという状況に陥っていたからでした。
そこまで追い詰められていたので、冷静に判断できない状態でした。
また、一番の問題点は先方のディレクターがWeb制作ほぼ未経験だったということです。
おかげで、ディレクターがやるべき仕事のほとんどをこっちに丸投げされるという事態になり、結果的にほぼ赤字状態です。時給に換算したら悲惨なものです。
また、コーダーとシステムエンジニアも同じくクラウドソーシングで探したフリーランサーだったため、うまく意思疎通ができませんでした。
できることなら制作一式請け負ってしまい、自分で捌けない分を外注したほうがやりやすいです。
まとめ
フリーランスとしてやっていく上で、自分の身を守るのは自分しかいない。
デザイナーはデザイン技術だけではなく、案件を管理するディレクション技術や管理能力、交渉術も必要になってくる。
また、クラウドソーシングを使っていくには、案件を獲得しても安心してはいけない。まずは冷静に判断して、クライアントを見抜くということも大事なスキルとなる。
今回は、支払いに関しては問題がなかったのが幸いだったけど、中には悪質なクライアントも潜んでいる。実際、この案件の前にモラルに問題のあるクライアントに遭遇している。そのためにも、見極めというのは大事だなと今回実感した。
今回クラウドソーシングで仕事をして失敗したことを踏まえて、今後のために注意すべき点をまとめてみた。今回の事例はクラウドソーシングサービスを使ったWeb制作だったけど、クライアントワークをしていく上で、どの職種でも共通して言えることなんじゃないかと思う。
・ 案件に入る前にしっかりと細かいところまでしっかり詰めておく。
・ できることならディレクションからコーディング、システムまで一式を請け負う。
・ 自分の身を守るために契約書を作成する。
・ ちょっとでもおかしい、無理だと思ったら思い切って辞退する。
・ 疑問に思ったことは、必ず確認する。
・ さりげなく指導権を握る。あくまでもさりげなく。
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