仮想身体(アバター)の身体性のお話 その1
達人やプロスポーツ選手の動きを、自分もできたら楽しいと思っていました。
ただ、そうなるのは師匠やコーチから長期間の指導を受け、長く鍛錬して試合や発表会に参加し続け、かなりの努力をこなしてようやく辿り着ける境地です。
一筋縄には行きません。
なので、最初は諦めていました。
運動音痴な自分がなれるわけが無い、と。
しかし、なにを思ったか武術を始め、今の先生に拾っていただき、じょじょに上達しだし、僅かなりとも武術家の動きを体現できるようになってきた現在、
「これをもっと手軽に体験できたら楽しいだろう」
と、思うようになったのです。
辿り着くために時間もお金も労力も注ぎ込んできた人達からすれば、
「なにを言ってるんだ。血迷ったのか!?」
と、思われるでしょう。
積み上げてきた研鑽の上に、今の身体技術があるのですから。
その研鑽を経ずにできるのであれば、自分たちの苦労はなんだったのかと言われるでしょう。
現在、VR(Virtual Reality)という技術が大進化しています。
数々のSFの世界で描かれてきた仮想世界の事です。
コンピュータの中に創られた立体世界、と言うとわかりやすくなるでしょうか。
ネットに多くの動画があがっていますので、詳しくはそちらを見ていただければ一目でわかるかと思います。
この世界では「アバター(Avatar)」という、仮想世界で動く自分のキャラクターを通して世界を巡ることになります。
このアバターの種類は多種多様で、ヒューマンやロボット、ファンタジーの住人であるエルフやホビット、妖精、トロール、ドラゴン、はたまた、ポケモンのモンスターなどなど、様々なキャラクターがいます。
また、アバター作成ツールがありますので、自分で作る事も可能です。
素晴らしいオリジナルキャラで歩いている人もよく見ます。
今のVRは黎明期に当たるのでしょう。
物語の中で長く語られていた伝説の「仮想世界」が、いよいよ現実世界に登場したのです。
技術的にはまだまだの部分がありますがこれも時間の問題で、ビックリする様な速さで克服し、進化していくはずです。
この技術の中核の1つと言っても過言ではない「アバター(Avatar)」。
残念ながら今はデジタルデータで外側だけシートを貼り付けて作ったはりぼてです。
動きも大雑把で、リアルのような精密な動作はありません。
移動も歩いてはいますが、歩くではなく滑走と表現した方が的確です。
つまり、行動の為に行った動作が噛み合ってません。
移動に関して言うなら、歩く動作をさせなくても横滑りで移動できます。
なぜこの仕様なのかと言うと、現実世界では「重さ」があり、動く為にはこの「重さ」を移動させる必要があります。
なので全ての生物は様々な構造で自身を移動させるのです。
(四足歩行や二足歩行、内骨格や外骨格、蛇行・飛行etc)
この為、現実の生物が移動する時には、動作は移動に直結します。
ドアを開ける為に手を伸ばす動作も、自身をその先へ移動させる為の行動です。
しかし、仮想世界ではこの「重さ」というものが存在しません。
移動は演算された数値をグラフィックで表現しているだけなので、すごく動きが軽く、「重さ」を考慮して動かす必要はまったくありません。
コミュニケーションをするだけなら、お互いの存在は記号としてわかればよいので、このレベルでもまったく問題はないのです。
しかし、それでは面白くないでしょう。
せっかく自由に動ける世界なら、現実ではできない事をやってみたいものです。
外見を自由に変えられたのなら、次は現実ではできないアクロバティックな動きで、仮想世界のビル街や森の中を思う存分跳び回ってみたくないですか?
アニメのキャラクターみたいに身の丈に合わない巨大な剣を振り回して、グレーターデーモンや、ドラゴンなどの中ボス、ラスボスクラスの敵と戦って勝ってみたくはないですか?
魔法を使って空を飛んでみたり、大魔法クラスの炎や竜巻を放ってみたくはないですか?
アニメやゲームの中だけだと思っていた出来事が、アバターとはいえこの身でできたなら、それはどんなに心が踊ることでしょう!!
後は「手応え」です。
敵に攻撃を当てた時、ヒットした衝撃が欲しいですよね。
大技や大魔法になればなるほど、ガッツリとした手応えが欲しいものです。
さらに、敵からのダメージを受けた時も体に衝撃が走ると臨場感がでますよね。
調べてみるとジャケット型で受けた衝撃が体感できるデバイスは開発されているようです。
Kickstarter(クラウドファンディング)で出ていたので、もう何年かすれば一般でも購入できるお値段で販売されるかもしれません。
今は視覚と聴覚しか適用されてませんが、もうじきこの「手応え」は導入されそうです。
そして、この手応え感覚は仮想世界がよりリアルに感じられるようになることでしょう。
「手応え」があればビル街や森の中を跳ね回る時に、しっかりとした踏みごたえや跳ねごたえを感じられるでしょう。
身の丈に合わない大剣をラスボスに当てた時に、逞しすぎる筋肉と硬い外皮に愛剣が弾かれそうになる衝撃を、握り込んだ両手で抑え込む事になるでしょう。
禁忌の大魔法を放った時に、体に絶え間なく打ち付ける大魔力のうねりとその破壊力を全身で感じ、戦慄を感じるかもしれません。
さらに「身体感覚」があればどうでしょうか。
スポーツ選手や武術家は、長年のトレーニングで身につけた「全身連動感覚」があります。
文章で説明するのはなかなか難しいですが、この「全身連動感覚」は身体操作技術者特有の感覚だと思います。
この全身連動感覚は文字通り全身を協調して使うため、リアルでの歩く動作や走る・跳ねる動作を向上させます。
この技術があるからこそ、スポーツ選手や武術家は通常では出せないような身体能力や攻撃ができるわけです。
この全身連動感覚がアバターに導入されればいかがでしょうか。
ビル街や森の中を跳ね回る時に、全身がゴムまりになったかのような一体感を感じる事でしょう。
アバターの超人的なバネ感覚がどの様に発揮されているのかを体感で感じられ、あなたを納得させるでしょう。
必殺の斬撃をラスボスに当てた時、硬い外皮と逞しい筋肉に弾かれそうになる愛剣から、ラスボスの筋肉の厚みや分厚いゴムのような弾力性、そこに自分の攻撃がどの程度通ったのかの度合いを、体に反射して突き抜ける衝撃から知ることができるでしょう。
禁忌の大魔法を放った時に、体に絶え間なく打ち付ける大魔力のうねりが体表のみならず体内も走り抜け、その魔力の凄まじさをより深く知ることになるでしょう。
まだまだ未来の話に感じられますが、「身体感覚」が導入されれば「体内の感覚」を感じる事ができます。
全身連動すれば動きの一体感を、攻撃や風圧・水圧を受ければ体内を駆け抜ける衝撃や圧力感を。
他にも様々な体感ができるかもしれません。
なにより、今まではスポーツ選手や武術家しか持ち得なかった特殊な感覚と身体運用技術を、運動未経験のプレイヤーが自分のものとして使うことができるのです。
ワクワクしてきませんか?
VRは大きな広がりを見せています。
社会構造すら大きく変えてしまう可能性を持ったこの技術は、今後も留まることなく勢いを増しながら進化していくことでしょう。
その中にここで紹介した「全身連動感覚」と「体内感覚」を始めとする「身体性」は、仮想世界とアバターがただの仮想ではなく「確かなもう一つの現実世界」と感じる為の重要な要素になっていきます。
この身体性が実現できた時、仮想世界はまた新たな世界の手応えを感じさせてくれるのではないでしょうか。
楽しみですね!
2018/5/13 仙龍雲 空人
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?