言葉が持つ力
私は家族からたくさんの言葉を与えられた。
父は言った。
「物事は客観的に見ろ!お前の感情なんかどうだっていいんだよ!お前の言う事は全てヘボ理屈だ!誰が悪いんだ!誰が正しいのか言え!」
父の言う客観的とは自尊心を守るための狭窄的主観だ。
私は父を100%肯定しなければ何時間でも罵られた。
言葉を選ばず罵られ、それでも傷付くことは許されなかった。
精神的に疲弊する私を見て父は言った。
「なんか?傷付いたような顔して!俺へのあてつけのつもりか!」
「お前みたいな奴は誰からも相手にされん!」
「お前みたいな奴は皆から嫌われる!」
「お前みたいな奴はどこにいっても通用せん!」
「お前みたいな奴は・・・!・・・!!」
母は言った。
「誰の我慢のおかげでこんな生活ができると思ってるの!」
母の我慢は子供の為ではなく自分の為のものだ。
誰かの庇護下でしか生きられない、永遠に娘でいたい自分を守るための我慢。
父から母を守ろうとする私が盾になっていても、母の関心は自分にしかなかった。
不貞腐れ悪態をつく母を窘める私に母は言った。
「なによ!皆でよってたかって!!私を傷めつければあんた達はそれで満足なんでしょ!」
「あんたがうまくやらないからお父さんが怒ったじゃない!」
「あんたのせいで余計ややこしくなったじゃない!」
「あんたのせいでいっつも話が大きくなる!」
「あんたのせいで・・・!あんたのせいで・・・!!」
長兄は言った。
「誰の犠牲のおかげでお前は好きにできると思っとっとか!」
長兄が犠牲だと感じているそれは自らが望んだことだ。
次から次へと与えられる物を受け取るその様が素直ではなく天邪鬼だっただけのこと。
悲劇の主人公に浸る長兄は私が感情のある人間であることに興味が無かった。
それでも理解を示そうと努力する私に長兄は言った。
「お前に俺の辛さが分かるか!」
「だいたいお前は親に感謝が足りず不遜だ!」
「お前は甘やかされて我儘だ!」
「もうよか、俺がこの家の事は全部見てやる!その代わりお前には一銭もやらんからな!覚えとけ!」
「お前は・・・!お前は・・・!!」
随分昔の話。
父が言った言葉はその通りとなった。
私はどこへいってもうまく生きられない。
母が言った言葉は事実となった。
現状に至った背景は全て私の性格的問題にあるとされている。
長兄が言った言葉は現実となった。
彼は一人で親と会社を支える健気な息子という状況を手に入れた。
全て彼等の思い通り。
言霊。
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