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第11話 ツナマヨ味

11月にもなると世の中は一気にクリスマス風景に変わる。劇場も毎年、クリスマスイベントを開催し、お客さんに楽しんでもらおうと試行錯誤している。

私はグッズ売り場と劇場出入り口前にと、飾るためのクリスマスツリーの飾り付けをしていた。

「おはよう、秋ちゃん。今年ももうこんな時期なんだね~」
出番の相席スタートのケイさんがやってきた。

「これから、年末に向かって忙しなってきますね。」

この時期はクリスマスもあるけど、芸人さんにとって一大イベントのM-1グランプリが控えているので、徐々に緊張感が増してくる時期でもあった。

石井くんと付き合う事になったはええけど、あれから数日間、会ってない。もちろん、誰にも内緒。ケイさんにだって言えない。
大阪行ったり、他のお仕事もあって忙しいから仕方ないけど…。
そんなこと考えながらツリーの飾り付けをしてると、後ろの方から聞きなれた声が聞こえた。

「おはようございます」
周りのスタッフさんや、先輩方に挨拶しながら石井くんが入ってきた。
声が聞こえただけでドキドキするし、何より嬉しいっ。

「石井さん、おはようございまぁす」

「おはよぉ。何してんの?」

「秋ちゃんと、ツリーの飾り付けですよ。来月もうクリスマスですからね」

ケイさんに隠れていた訳やないけど、石井くんから見えんかったみたいで、やっとこっちに気づいた。

「おはよぉ。小さいから見えんかったわ」
「また、石井さん秋ちゃんにそんなこと言って~」

久しぶりに会う石井くんに嬉しかったし、話もしたかったけど、ケイさんの前でヘタに態度がでてバレてもアカンし…。石井くんよりも小声で
「おはようございます…」、としか言えんかった。

公演のリハーサルなんかも一段落したので、私はいつものお昼休憩場所でおにぎりを食べていた。すると、つかつかと石井くんが近寄ってきて、隣に座ってきた。

「うっわ!びっくりしたぁ」
「お化けやないねんから」

久しぶりに石井くんの隣に座ってると、あの日のことを思い出して、またドキドキしてきた。

「顔赤いよ。また風邪か?」
「ううううんっ大丈夫!…そんなことより、こんなとこ来ててもええの?」

「久しぶりやから、顔見たかってん。ええやんか」

そんな風に言われたら、何にも言えないやんか。
おにぎりも食べられへん…。

「M-1の予選もあるから、また忙しなる。トークダンテもあるし、ここにも来るけどなかなか話されへんし。LINEより、直接会って話したいし」

「はい、体調に気をつけて。頑張ってください」
「なんか他人行儀やなぁ。なんかもっと可愛らしく言えんの?」
「可愛らしくって…」

口を尖らした私の顔に、ふっと笑って
「そうやって、また怒るし」
と、言いながらなんだか周囲をキョロキョロし始めた石井くん。

「どしたんですか?」
「秋。これで、しばらく頑張れそうやわ」
「ん?…これでって?てか、いま名前…あきって言うた??」

私の言葉を遮るように、すぐ目の前に石井くんの顔がきて、あっという間に口を塞がれた。

「またLINEとかするから…」
と、言って私の隣から去っていった。

「えええっ…なんなん…よ…」

こんな所でキスされるなんて思いもよらんかった…。
しかも、なべさん呼びから下の名前で呼んでくれたし…。早くも、クリスマスプレゼントを貰ってしまった感じ…。
ドキドキし過ぎて、おにぎりがこれ以上食べられんくなった…。

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