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第14話 声

年末年始は本当に忙しい。
劇場にお休みはない。年末恒例のカウントダウンライブ、お正月休み無しで寄席やお客様を楽しませる為のイベント等、立て続けにあって忙しいなんて感じる暇も寝る暇もない。それは、出演する芸人さんも同じ。落ち着く間なんてない。
ふぅーと、一息ついた時は朝なのか夕方なのか分からない時もある。
そんなこんなで、気がつけばお正月なんてとっくに過ぎているなんてしばしば…。

石井くんとは、2人でカフェに行ってから全く会っていない。
こちらで出番があったとしても話す暇おろか、まともに顔も見る暇もない。LINEも電話もお互いにすることもなくて、忙しいやろうから、といいわけにして連絡もしなかった。

仕事を終え、コンビニに寄って帰った。
明日は久々の休日。気力も抜けていた。

お風呂に入って、ビールを開け呑むと堕落した体にしみわたって「うま~…っ」と私のオヤジ面が出てきた。そんな自分に笑けそうになっているとLINEが入ってきた。

「ん?誰やろう…」

『 おつかれ。今、何してんの?』

「石井くんや!!!」

石井くんから久しぶりのLINE。
めちゃめちゃ嬉しかった。心臓の高鳴りの音が外にまで聞こえるんやないかと思うぐらいにドキドキしている。

『 今、お風呂入ってビール呑んでました。仕事終わったんですか?』と返した。

『 俺も帰ってきて、珍しく呑んでた。』

私が返信する文章を考えていると電話が掛かってきた。

「もしもし。もうLINEより電話の方がええから」

「そうやね。ありがとう」

嬉しい。久しぶりに石井くんの声を聞いた。
一気にホッとして酔いがまわりそうや…。

「忙しくて、全然あれから会えてないな。電話もできんくて…ごめんな。」

「いいよ。お互い様やし。私も連絡せんくて、ごめんなさい。」

「元気やったん?そっちの劇場も行くんやけど、会われへんし、見つけても話さらへんし…」

「そうやね。でも、仕方ないよ。お互いに仕事なんやし」

私は正直、今すぐにでも会いたかった。
けど、今、そんなこと言うて石井くんを困らせたくなかった。迷惑やって思われて嫌われたくないし。

「でも、珍しいね。家でお酒呑んでるなんて。」

「たまにはな…。そんな呑まれへんけど。折角なら一緒に呑みに行けば良かったな。」

あー…そんなこと言われたら、ますます会いたくなるやないですか…。

「あの…ほら!石井くんに貰った腕時計付けてるよ。ホンマありがとうね。見やすいし可愛いし!この間、ケイさんにも褒められたんよ。」

「そりゃ、良かった…。話しそらしたな。まぁええけど。」

うっ、なんか怒ったかも…。
正直に言えばええんかなぁ…。どうしよう、と次の言葉を考えて悶々としていると…

「あき」

急に名前を呼ばれてドキッとした。

「はい。ごめんなさいっ。そんなつもりやなかったんやけど…。」

「けど?」

「…こんなん言うて石井くん困らせたくないし。」

「困らせるってなに?そんなん言うてみんとわからんやろう。俺は、秋になら困らせられてもええよ。」

電話越しやけど、耳元であの声でそんなこと言われたらビール呑んでなくても顔は熱くなるし、ドキドキが止まらなくなる。
私は石井くんの優しいけど、ちょっと意地悪な所も好きやけど、声も好きや。

「…会いたいよ。」

と胸が痛いくらいにドキドキしながらも正直に言うてみた。

「俺も会いたいよ。」


いつ会えるか分からんけど、同じ思いでいてくれてたんや、と安心できた。
その言葉だけで幸せな気持ちになれた。

好きな人の声が聞けるだけで幸せ。

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