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ヘタレ師範 第16話「ゴボウ空手」


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テッキ「情けねえ、 この男、仮にも師範だろ?この道場の? 」

オバさんが五郎の背中を叩きながら。

「決まってるじゃないの、『護身防災空手研究所』、別名『ゴボウ空手』の、たった一人の師範兼経営者、五郎ちゃん」

ジオンたちは吹き出した。
「ははは、何だよ?『ゴボウ空手』?」
ガンカク「そういえば、オープントーナメントんときも、そんなヤジ飛ばしてたのがいたっけ」
テッキ「にしても、こんなヘタレな師範がいるか? お前らいったいこんなのから何習ってんだ?」

ミヒ「だから・・・」
「そうか!」
ミヒが説明しようとしたがテッキが割って入った。
「さっきジオンが言ってたように、こいつは格闘技オタクってヤツだ。理屈だけで、実践はまったくダメダメなヤツ」

ガンカク「そういえば、オタクとは違うがどこの道場にもいたな。
大勢の弟子を従えて、道場の中じゃふんぞり返ってるクセに、いざ戦ってみると、ぜんぜん弱っちい大先生ってのがさ」

ミヤギがため息。
「お前ら、とことん素人だな」

ジオンもため息。
「またそれかい?バカの一つ覚えに。オメエらも、テツたちのいう、実力もない 理屈だけのインチキ大先生と同じかよ?
でもまあ、オレたちのパンチも喰らってケロッとしてるのはほめてやるよ。どんなトリックかは知らねえけどな」

そうは言ったが
ジオンたちは、ミヒやミヤギ夫婦の回復力が、トリックなんかではないことは分かっていた。

しかも彼らはその方法を『ここで習った』と言ったのだ。

ガンカク「まさか、このヘタレ野郎から?あんなゾンビみたいに回復するワザを?」
テッキ「それこそ、まさかのまさかだよ。
だってこの大先生、『オープントーナメント』ンとき、ゴリラに蹴飛ばされて、気絶しても回復なんかしなかったじゃないか」

五郎「すいません」

テッキ「何がすいませんだ?ヘタレが」
ジオン「こいつのヘタレにごまかされるンじゃないぞ。あのとき、この男が担架で運ばれた後のことはオレたちは何も知らないんだ。
もしかしたら、あの後、回復してたかもしれないだろうが。
何せオレたちは、あのときゴリラの肋骨事件に気を取られ、ヘタレのことなんざ気にもしていなかったんだからな」

ところが五郎は慌てた。

五郎「いや、すいません。けど、そんなことあるワケないじゃないですか。そのテッキさんの言うように、ボク実力なんか全然ないんですよォ」

テッキが呆れて。

「なんだ、こいつ。戦いもしないで泣き入れてるぜ」
ガンカク「ったく、この道場には弟子から師範までロクなのがいねえな」

すると五郎が

「おっしゃる通り、ボクはロクでもないし、情けない師範です、すいません。それでも‥‥」

ジオンたちは、ミヤギ夫婦や、ミヒは倒したし、五郎のヘタレな態度で、もうこれで道場破りの勝負はついたと思っていた。

あとはカネをふんだくるか、看板をいただくだけだ。

が。

このヘタレ師範は「それでも‥‥」と言った。

ジオン「フン、大先生が『それでもっ』て来たぜ。ガン、この先生、こんな目にあってもまだ言いたいことがあるようだぜ」

ガンカク「何だよ?聞いてやるぜ、ヘタレオタクのリクツをよ。でも1分で言いな」

五郎はビクビクと上目づかいに。

「あの、すいません。あまり言いたくなかったんですが、ここの人たちは、ボクみたいなロクでなしなんて一人もいませんよ」

テッキが
「ロクでなしだろうが。全員俺たちに勝てなかったんだ。道場破りに負けるようなヤツらなんてのは、みーんなロクでなしだ。文句あンのか?コ
ラ!」

五郎慌てて

「す、すいません。でも、ミヤギご夫婦も、それにミヒだって、あなたがたに負けてなんかいませんて言うか‥‥」

この五郎の言葉にジオンは。

「なに寝ぼけてんだ? おまえ師範のクセに勝負の判定もできないのか? それとも何か?てめえ、ヘタレのクセに卑怯な言いわけをしようってか‥‥」

「いえ、すいません‥」

ジオンが五郎に喰ってかかると五郎はとたんに下を向いてカラダを縮めてしまった。気の弱い男だ。

それでも

「あなたがたは自分たちの勝ちだと思ってるし‥‥ボクは、自分の仲間が負けてないと確信しています」

するとミヒが勢いよく。

「ウン、わたしもカクシン賛成!」

ミヤギ夫婦もうなずいている。道場組は誰一人自分が負けたなんて思ってないらしい。

テッキは頭にきた。
「だったらもう一度やればいいだろうが。それでシロクロはっきりするじゃねえか」

しかし五郎は。
「あのぼく、シロクロはどっちでもいいんです。どっちが勝っても負けても‥‥それが勝負ですし。すいません‥」

ジオンたちはまたあっけに取られたし、理解できなかった。

いくらヘタレでも道場の師範だ。スポーツでいえばコーチではないか。

勝ち負けはどうでもいいコーチとか師範なんて?

「いるわけないだろうが、そんなヘタレ師範!」

これまで勝つことのみを教えられ、叩き込まれ、勝つことにこだわってきたジオンはもう我慢ができなかった。
五郎の胸ぐらをいきなり掴み、グイグイと押し進んだ。

「わあ、止めて、止めて下さい‥」

「何ゴチャゴチャ言ってんだよ?勝負すんのかしねーのかはっきりしろい!」

五郎はとうとう壁に押しつけられた。いわゆる「壁ドン」状態だ。壁ドンは普通、男が女を壁に追い詰めることだ。これは「逆壁ドン」てことになる。

追い詰められた五郎は

「ボ、ボクは別に勝負なんてしなくも、ただ意見が違うと言いたかっただけで・・・すいません」

そのとき、

「ヤメテね!」

ミヒがいきなりジオンを後ろから羽交い締めにして五郎から引き離した。

「離せ!何しゃがる?」

ジオンは暴れてミヒの腕から逃れようとした。しかし、彼女はやみくもに暴れていたのではない。

足を交互に飛ばし、前蹴りで自分の肩越しに、そして後ろ蹴りで、ミヒの顔面や腹部を蹴ろうとしたのだ。

実際ミヒは、飛んでくる蹴り足を何度か避ける必要があった。何という股関節のやわらかさだ。

ミヒは、ジオンが3回目に蹴り上げたとき、彼女の軸足のヒザ裏に自分のヒザ頭をポンと当て、羽交い締めの手を離して身体を引いた。

途端にジオンの軸足はカクンとヒザから崩れ、蹴り足をふり上げた勢いで後ろにひっくり返って…。

しかしジオンは転倒しなかった。

ガンカクが素早い動きでジオンを抱き止めてくれたからだ。

なのに、ジオンはまるで変態男から逃れでもするようにガンカクからパッと身体を振りほどき、

猛然と。

「よけいなコトすんじゃねえ!誰がお前なんかに手助けなんか頼んだんだ?」

ひどい話だ。何が気に食わなかったかはわからないが、ガンカクはどう見たってジオンより10歳は歳上だ。

それも、せっかく助けてくれたのではないか。

ところがガンカクは。
「済まねえ、俺はジオンが『男嫌い』であることを知りながら‥‥ついうっかり‥勘弁してくれ」と頭を下げたのだ。

ジオン「‥‥‥」

ミヤギがボソッと。
「助けてくれたのに『よけいなコトするな』はねえだろ」
ミヒ「でもガンちゃん、なんかカッコいい」
ミヤギ「でも、あの姉ちゃん男嫌いってことは、あっち(同性嗜好)のほうか?」
オバさん「やっぱりね、そうじゃないかと思ってたんだ。でもあの娘、そっちの方じゃなくて、どうやら男が嫌いというより、憎んでるというか? あたしゃそう睨んでるんだけどさ」

ジオンは謝罪するガンカクを気にも留めず、ミヒに近づいた。ことの発端は、ジオンを後ろから投げ倒そうとしたミヒなのだから。

ジオン「てめえ、よくも?」

ミヒに掴みかかろうと身構えた。
ミヒはそんなジオンを無視し、何か思い詰めたような目をして壁ぎわの五郎に進み寄った。
「な、何?」
五郎はミヒの勢いに呑まれ、また壁ドン状態に追い詰められた。ミヒは真剣な目を五郎に向け。

「五郎ちゃん!」
ミヒは涙目になっていた。
「え? 何? どうしたの?」
「ごめん、五郎ちゃん!」

女が男を壁ドンに追い詰めて、真顔で見つめ、しかも涙目で、名前まで呼ばれたら‥‥。

テッキ「えー?告白?浴衣(ミヒのこと)はそんなヘタレ男が趣味なのかよ?」

しかし、ミヒは。

「ゴロちゃん、ワタシもう一度戦いたい。再シアイお願い」

五郎とテッキ「‥‥え? 再試合?」
ミヤギ夫婦もミヒと同じような眼差しで五郎を見つめていた。
ガンカク「道場破りで再試合? これまで一度だってそんなこと?」

再試合は日を改めて、ということになった。
ーーーーーーーーーーーーーーー本文終わりーーーーーーーーーーーーーー

第17話「リベンジ」へつづく




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